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それは、ある日常の「物語」 #07

幼子のようにあどけなく微笑ましい寝顔に、口許が緩んでしまう。
音を立てないように足を忍ばせ、ソファの背から前に移動する。
自分の帰りを待っていたものの、睡魔に負けて寝入ってしまったのだろうか。
彼の手から落ちたらしい文庫本をローテーブルの上に救出してやり、ラグの上に腰を下ろす。
子猫のようにソファの上で丸くなっているアルフレードの寝息が耳朶を擽る。

「…ぅ…ん、…」

一体、どんな夢を見ているのか。
幸せそうに緩んだ顔が愛らしくて魅入っていると。

「…とまとのしゅーかくしないと…」

はっきりとした、これまた愛らしい寝言が紡がれた。
今朝、家庭菜園で育てているトマトが収穫の頃合いだと嬉しそうに話していたのを思い出し、思わず小さく笑う。
夢の中の彼は今頃、瑞々しく赤く実ったトマトを収穫しているのだろうか。
そうして愛らしい寝顔と寝言を堪能していると、不意に閉じていた瞼がゆっくりと上げられた。

「んぅ…ん?」
「起きたか」
「…あ、はいん…おかえりぃー」
「あぁ、ただいま。ベッドに行こうか」

腰を上げ、半覚醒状態でふにゃりとした笑みを向けてくる彼の柔らかな髪を撫でる。
それが心地良かったのか、擦り寄ってくる彼の額に口付け、ソファから抱き上げた。

「取り敢えず、トマトの収穫は明日な」

首を傾げて不思議そうな顔をする彼にまた小さく笑う。
そして、ふと思った。
豊かな色彩と光に溢れた世界を持つ彼の夢を見てみたい、と。

  君はどんな夢を見ているのだろう。なぁ、聞かせて欲しい

__________


「土産は何がいい?」

2日間とはいえ、海外出張。
かつては、必要な物を現地で調達していたというのに。
今では一通りの物が揃えられ、その上、鞄に詰められた状態で渡される。
それを受け取りながら、恐らく自分よりも自分が必要な物を遥かに理解しているアルフレードにそう問えば。

「ハインが撮った写真」

と、無邪気な笑みで返された。
物欲もなく、何かを強請ることもない彼の口から「時計」や「アクセサリー」と返ってくることはないと分かってはいたが。
その応えは、予想外なものだった。

「ポストカードや絵葉書ではなくて?」
「うん、ハインが撮ったのがいい」
「…俺が、か」
「ハインが見たものを撮ってきて。ハインが綺麗だと思ったものを」

手際よくネクタイを結び、襟を直していく手が頬に宛がわれる。

「ハインが見たものと同じ景色が見たい。それでね、帰ってきたらいっぱい話しを聞かせてね」

そして、踵を浮かせて唇を重ねてきたアルフレードに、これ以上にないほどの愛しさが込み上げてくる。
行ってらっしゃい、と笑みを浮かべる彼の唇を再び奪う。
これから向かう先は幾度となく訪れたことのある土地だが、今日見るその土地の景色は。
あぁ、きっと。
とても色鮮やかで美しいものだろう、と思いながら。

  あの街には花が多いことを知った日

__________


自分でも、どうしてなのか分からない。
ただ、止めることができずに流れ落ちていく。
人間特有の、生理現象。

「アル…」
「大丈夫だよ。どこか痛いわけじゃないから」
「……」
「でも、痛くないのに涙が流れるなんて、おかしいよね」

角膜や結膜を潤し、血管を持たない角膜に栄養を与え、雑菌の消毒作用として分泌される“涙”。
それは、角膜などに対する刺激や全身の痛覚などによって多量に分泌されるもの。
でも、オレはどこも痛くはない。
それなのに、溢れてくるそれは止まらない。

「アル、知っていたか?」
「……?」
「涙が流れる仕組みは、解明されていないらしい」
「え?」

角膜を守るための分泌液。
それが分泌される仕組みは誰かが証明したというけれど。

「…痛いから、涙が流れるんじゃないの?」
「そうかもしれないな」
「オレ、どこも痛くないよ」
「涙が流れるのは、痛みを感じたときだけではないだろう」
「……」
「哀しくても涙は流れる」
「…哀しく、ないよ」
「寂しくても涙は流れる」
「…寂しくも、ないよ」

哀しくないのに。
苦しくも寂しくも痛くもないのに。
どうして、この水滴が流れるの。
止められないのは、どうして。

「言っただろう?涙が流れる仕組みは解明されていない、と」
「……」
「理由があるから涙が流れるとは限らない」

理由もなく流れては止まらない水滴を彼の指先が拭い取っていく。

「むしろ、涙が流れるから理由が生まれるのかもしれない」
「理由が生まれる?」
「あぁ、いつかな」

痛みを、哀しみを、寂しさを、感じたときは。
そのときは、声を上げて泣けばいい。
理由のある涙を枯れるまで流せばいい。
だからそれまでは、理由のない涙で泣く練習をしておこう、と。
そう言って優しく笑った彼の指を濡らした水滴は。
きっと。
嬉しい、という理由の涙だった。

  思考の原理による充足理由の原理の批判的根拠の証明


#08


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