それは、ある日常の「物語」 #08

“神の家”と称させるに相応しい、荘厳で静謐な空間。
厳粛な空気がピンと張り詰めた中。
口許を緩めて瞳を閉じるその姿は、一枚の宗教画を見ているようだった。

(綺麗だな…)

磔刑にされた救世主の彫像の前に跪き、彼は祈りを捧げていた。
ステンドグラスの色彩を食んだ光が彼の金糸に降り注ぎ、神々しく輝かせる。
あぁ、天使はこの世界に顕在しているのだ、と思わせるに足る美しい光景。

「…アルフレード……」

思わず紡いだ彼の名に、胸が甘く締め付けられる。
彼の名は、これほどに美しいものだったのか、と。

「ハイン」

振り向き、俺の名を呼ぶ彼の穏やかな笑みに、じんと目頭が熱くなる。
それは、神など持たなかった俺が初めて、神のその上に居る存在を。
真にその名で呼ばれるべき存在を、信じようと思った瞬間だった。

  あなたに祈りを捧げるのはこれが最後です。明日からは、あなたに感謝を捧げます

__________


携帯電話が、メールの着信を告げる。
送信者の名前は、Alfredo…。
何かあったのだろうか、と過ぎった不安に、慌ててそれを開く。
そのディスプレイには。

“空を見て!”

たったそれだけの文字が、映し出されていた。

空?と思いながら、デスクチェアに腰掛けたまま、背にしているフィックス窓の方へ目をやる。
ミュンヘンの街並みを見下ろすことのできるそこには。

(…あぁ、コレを見せたかったのか)

パソコン画面や書類に視線を落としていれば、決して気付くことはなかっただろう。
たとえ気付いたとしても、かつての自分はコレを美しいと思える心がなかった。
今頃、メールを送り終えた携帯電話を片手に、バルコニーで空を見上げながら微笑む彼の姿が容易に目に浮かんだ。
陽光の下で微笑むその姿は、さぞかし美しいだろう。
あぁ、彼と出逢わなければ、俺は今も知らずにいたに違いない。
世界には、これほど多くの光が溢れているということに。

「光の階、か」

窓の向こうには、七色の美しい虹が、立っていた。

  君と共有する時間が少しでも綺麗なものでありますように

__________


「はいん」

愛らしい笑みを浮かべた、愛しい存在に名を呼ばれる。
自分の名前は、こうも甘く聞こえるものだっただろうか。

「アル」
「なぁに?」

ふわり笑みを浮かべるアルフレードの柔らかな頬を撫でれば、擽ったそうに鳶色の瞳を細める。
その可愛らしい仕草に思わず口許を緩めて、膝の上に抱き上げた彼の髪を梳く。
細工飴か蜂蜜のように煌めく髪。
チョコレート色の瞳に、生クリームのような白く滑らかな肌。
彼を構成する全てが、蕩けるほどに甘い。

「ふふ。擽ったいよ、ハイン」
「甘いな、お前」
「え?オレが?」
「あぁ、砂糖菓子みたいだ」

大きな瞳をさらに丸くして。
その一瞬後に、とびきり愛らしい笑みが浮かべられた。

「じゃぁ…、」

するりと細い腕を首に巻きつけてくる。
そして。

「食べてみる?」

これ以上にないほどの甘い声音で。
熟した苺のように赤い唇が、極上の睦言を紡いだ。

  甘い肢体に甘いキスを


#09


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