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それは、ある日常の「物語」 #09

薄暗く、じめじめとした細い路地裏の隅に、ぽつんと菜の花が咲いていた。
どこからやってきたのか、雑草の中に一輪だけ。
そのひとりぼっちの姿が、あまりにも寂しそうで。
そしてそれは、彼と出逢う前のオレ自身にとてもよく似ていた。

「家に来る?」

彼が、オレに手を差し伸べてくれたように。
まだ花開いたばかりの菜の花が、太陽の優しい光を浴びて満開になれるように。
寂しく、ないように。

「今年も咲いたな」
「うん。今年も綺麗だね」

そうして、いつしか。
太陽の光が届かないじめじめとした路地裏に一輪だけ咲いていた菜の花は。
ひとりぼっちで、寂しそうだった菜の花は。
ひとりぼっちではなくなった。

「来年は更に増えるだろうな」
「プランターを増やさないとね」

オレも、菜の花も。
たくさんの想い出を胸にしめて。
優しい陽光の下で、孤独の寒さを忘れられる時が来たから。

「もう寂しくないね」

プランターいっぱいに咲き誇る黄色い花たちが、頷くように小さく揺れた。

  この広い世界の中で、ボクはキミを探していました

__________


「あれ、その爪…どうしたの?」

食後にソファで寛いでいると、隣でテレビを見ていたアルフレードがふと俺の右手を取った。
人差し指の爪が割れていたのを思い出す。

「ちょっと伸びているね。切ろうか」

そう言ってぱたぱたとリビングを出て行ったかと思えば、彼はすぐに戻ってきた。
その手に、爪切りを持って。

「はい、手を出して」

白く細い手に掴まれ、その心地良い温かさに身を委ねることにする。
彼の繊細な指が、俺の指の輪郭を確かめるように触れる。
そして、慎重に。
だが、慣れた手つきで爪を切っていく。
ぱちん、ぱちんと軽快なリズムに乗り、鼻歌が聞こえてきた。

誰かに爪を切ってもらうなど、記憶にも残らないほど幼い頃の経験だ。
初めの頃は戸惑いを感じることもあったが、今ではこの時間が心地良いものになっている。
労わるように触れられ、慈しむような瞳をしている彼に愛しさばかりが込み上げる。

「あまり短くすると指を痛めちゃうから、このくらいね」

仕上げにヤスリで研ぎ、出来を確かめるように1本1本、爪先を撫でていく。
その動作があまりにも心地良く、噛み殺せなかった欠伸が思わず零れる。

「ふふ、眠くなっちゃった?」

どうぞ、と言うかのように自分の膝を軽く叩く彼にはさすがに驚いたが。
しかし、その甘い誘惑を拒むことなどできるはずもない。
素直に頭を預ければ、幼子にするように髪を撫でられる。
その感触がひどく心地良いのだから、堪らない。
何とか抗っていた睡魔の手が、袖を引く。

「おやすみなさい、ハイン」

睡魔にも、この最愛の青年にも白旗を掲げて。
春の日向にいるかのような穏やかなまどろみに、身を委ねた。

  理由など必要ない。ただただ、愛しいだけだ

__________


ひどく曖昧に、それでも確かに。
その声ならぬ“声”は、聞こえていた。

「アル…」

呼びかけに応える声はなくとも、哀しげに震える“声”だけは消えない。
不安に押し潰されそうな、弱々しく悲痛なそれ。
助けて、と。
音にはならない“声”が、血を吐くように叫び続ける。

(いつか、聞かせてくれるだろうか…)

心に直接響いてくるそれを、いつか。

  どうか、君と同じだけの苦しみを分けてください


#10


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