Jungvogel

どんなに恨んでも、憎んでも、嘆いてみても、現実は変わらない。
それは、全能と謳われる神でさえも変えられない事実。

「いつだって、世界は残酷すぎるわ」
「そうだな…」
「あなたがそんな顔をしないで。あなたはこれから、この子と生きていくのよ」

白く細い指が、ベビーベッドで眠る最愛の我が子の柔らかな金糸を撫でる。
この世界に生まれたばかりの小さな命を慈しむように。
ありったけの愛しさと優しさを込めて。
穏やかな眼差しが、力強い鼓動を刻んでいる我が子を見つめる。

「ねぇ、私が後悔していると思う?」
「…正直に言うと、分からない」
「あなたは、後悔している?」
「できないから、複雑なんだ」

眠る我が子を見つめていた琥珀の美しい瞳を向けられ、男は自嘲の混じる苦笑を口端に浮かべた。
いっそ後悔してしまえたなら、幾分か楽だっただろう。
祝福を受けておきながら、自分にとって唯一無二の命を奪っていくこの命を憎むことができたなら。
この命を恨み、嘆くことができたのなら。
そう思わずには、いられない。

微かに震える声でそう続けた男を見つめていた彼女は、ふわりと笑んだ。
それはあまりにも穏やかな微笑みで。
まるで、そこだけが陽だまりの中にあるかのような温もりに男は抱擁される。

「私は少しも後悔なんてしていないわ。だって、あなたと愛し合うことができたんですもの」
「お前はそれでも、愛する者を遺していくのか…」
「そうね。酷いのは、私ね」
「…すまない。お前に言うべき言葉ではなかった…」

項垂れてしまった男の手を取り、彼女はそっとその痩身を男に寄せた。
自然な動作で腰に手を回され、抱きしめられる。

「あなたを遺していく私を、あなたは許してくれるかしら」
「憎んでしまいたいよ」
「えぇ、私もよ。あなたでなかったら、こんなにも別れが辛いものだと知らずに済んだのに」

それでも。
と、彼女は男を見上げ、彼女が今まで彼に見せたいくつもの表情の中で最も幸福に満ちた笑みを向けた。

「それでも、あなたとの出逢いを憎むことなんてできないわ。私は、幸せだもの」
「あぁ。この広い世界の中で、これほどに愛しい存在と出逢えた奇蹟を憎むことなどできない」
「えぇ」
「お前を愛することができて、幸せだから」
「それに、私たちはもうひとつ…大切で愛しい存在と、出逢うことができた」

命を産むという行為は、容易ではない。
植物も動物も、そして人間も。
何かしらのリスクを背負わなければ、神ですら不可侵の領域にある生命の真理に触れることは許されないのだ。

そして自分は、それを望んだ。
たとえ、己の命を削ることになったとしても。
たとえ、手に入れた唯一の絶対的な最愛の存在と共に歩む願いを犠牲にしてでも。
たとえ、己の命を分け与えた小さな命が輝きの中で成長していくのを見られなくとも。

「ありがとう、ベルナルド」
「ラファエラ…」
「私に、私の全てを賭けて愛するものを2つもくれて」

寂しくないと言えば嘘になる。
だが、それ以上の愛しさが痛みを訴える傷口を塞ぐ。
男の頬に流れた水滴を拭い、その手で触れることができた小さな命に再び眼差しを向ける。
眠っていたはずの我が子はいつの間にか目覚めていたらしく、ぱっちりと開いた瞳と視線が交わった。

「あら、起きちゃったのね?」
「ぅ、あー、ぅ」
「あなたは、パパンと生きていくのよ」
「あぅ、あー」
「どんなに辛いことがあっても、悲しいことがあっても、押し潰されそうなほどの痛みを抱えても」

分厚い雲に太陽が隠されることはあっても、無くなりはしない。
光はきっと、その命を見守り続けるから。

「私の愛しい天使。大きな翼を持ちなさい。その翼で、羽ばたきなさい」

残酷でいて美しいこの世界の、逃れられない過酷な現実に向かって。
羽ばたいていきなさい。
きっと、あなたなら大丈夫だから。

「望むものに向かって羽ばたいていくのよ。容易く届かないものに臆することなく、決して諦めることなく」

今はまだ、力のない小さな雛だ。
その小さな翼ではこの世界はあまりにも広すぎて、木々の葉にさえ届かないだろう。
だが、いつか必ず。

「世界は残酷よ。でもね、素敵なこともたくさんあるわ」

きゃっきゃと無邪気に笑う我が子。
どうか、その笑みを失いませんように。
どうか、この世界の醜さと残酷さを知ってもなお、その瞳の輝きを忘れませんように。
残り僅かだと告げられたこの命の全てを賭けて、祈りたい。

「祝福を欲しいがまま手に入れるために、あなたは生きなさい。私の愛しい、Alfredo」

  幼いは美しい鳥へと成長し、やがて、大きな翼を広げて羽ばたくのでしょう


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アルママが生きていたら、ハインは嫁にも姑にも頭が上がらない婿さんになっていたに違いない。
「勝てるわけがない」って言いながら、嫁と息子を溺愛しているアルパパとお酒を飲んでいそう。

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