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優しいファーロが呼ぶ先に

光の粒が、雪のように降り注ぐ。
まるで、ダイヤモンドの欠片を浴びるかのようにそこに立つアルフレードに、ハインリヒは一瞬呼吸を忘れた。

「……っ、」

人工芝が敷き詰められたバルコニーの中央を占領している大きなツリーのイルミネーションのその光は、可愛らしいオーナメントには不釣り合いなほど儚く。
どこか怜悧な硬質さを伴った不思議な色彩を放ちながら、規則的に点滅する。
その度にちらちらと降る光の粒は彼の柔らかな金糸の髪を煌めかせ、白皙を彩る。

凍てつく冬の夜の静謐な空気の中。
凛と佇むその後ろ姿の神々しさに、ハインリヒはブラックサファイア色の瞳を眩しそうに細めた。

(“いつくしい”という言葉は、アルのためにあるようなものだな)

儚く、脆く、しなやかで、強靭。
彼を表す言葉の羅列は、本来ならば共存しないはずのものだ。
しかし、どれか一言で表すことなどできない、とも思う。

(天使なのだと言われても、驚きはしないな)

彼をそう譬えることは常こと。
だが、今。
目の前にある光景は、まさに地上に降り立ったそれのようで。
随分とロマンチズムに傾倒した己のその思考に内心で苦笑をひとつ落とし、ハインリヒは「アル」とその背中に小さく呼びかけた。

「ハイン?」
「いつまでそこにいる気だ。風邪を引くぞ」
「うん」
「そろそろ中に入ったらどうだ?」
「うん。でも、もうちょっとだけ」

振り向いた拍子に、アルフレードのために仕立て上げられた白いコートの裾がふわりと風と遊び、それを金糸の髪が追う。
そんな些細な動きひとつひとつでさえ眩しく見えるのは、広いバルコニーが寂しそうだから、と言って彼が持ち出したツリーの光を浴びているからではなく。
彼自身が、それこそ光そのものであるかのように輝いているからだろう、と思う。

そんなことを考える自分に再度苦笑を落としながら、ソファに放られていたブランケットを片手にバルコニーに下りる。
積雪を防ぐための熱線が張り巡らされているそこが白く染まることはない。
だが、眼下には見事なまでの銀世界が広がっており、空には鈍色の分厚い雲が居座っている。
この様子だと明け方にはまた雪が降り出すだろう、とちらりと空を見上げてから、ハインリヒはその視線をアルフレードに戻した。

「風邪を引いて、公現祭をベッドの上で過ごしたいのか?」
「それはイヤだなぁ」
「それなら、大人しくしていろ」

悪戯っぽい笑みを口端に浮かべたハインリヒに、アルフレードは抱き上げられて強制的に室内に戻されるのかと思った。
だが、その予想は大きく外れた。
驚く自分の反応まで見越していたらしいハインリヒの忍び笑いが、頭上に落とされる。

「後少しだけだからな」
「いいの?」
「俺にはいつもの夜景に見えるが、お前にとっては何か特別なものに見えているのだろう?」

それなら、お前が冷えてしまわないように湯たんぽになってやる。
そう続けながら微笑するハインリヒを仰ぎ見上げたアルフレードは、夜風に晒されて冷たくなっていたはずの頬がじわじわと熱くなっていくのを感じた。

ブランケットを羽織った彼の腕の中に背後から抱きしめられ、すっぽりと包まれる。
分厚いコートの上から彼の体温が伝わるはずなどないのだが、直に触れ合っているかのような温もりが全身を抱擁し、ふにゃりと頬が緩んだ。

「ハインはオレに甘すぎるよね」
「そうか?俺としてはまだ甘やかし足りないんだが」
「もう十分なくらいだよ」
「十分なものか」

いっそ彼が満足するほど甘やかされたら、自分は一体どうなってしまうのだろうか。
ずくずくに溶けて、それこそ彼の存在が側になければ生きてはいけなくなってしまいそうだ、と思う。
ただでさえ彼を失ったら呼吸ができなくなるほどに依存しているというのに、と微苦笑する。

「ちょっと困るなぁ」
「何が困るんだ?」
「だって、オレの1日はハインでできているようなものなのに…これ以上甘やかされちゃったら、1秒も離れられなくなっちゃいそうだもん」
「あぁ、それはいいな」
「え?」
「一生離れられなくなればいい」

こうして、とぎゅうっと背後から抱きしめられ、アルフレードは彼に体重を預けると、瞳を閉じた。
人間の五感の中で最も多くの情報を収集しているという視覚を閉じれば、失ったそれを補おうと残りの感覚が鋭利になっていく。
聴覚は、彼の規則正しく刻まれる力強い鼓動を。
嗅覚は、彼に馴染んだ煙草とトワレの混じる仄かに甘い香りを。
触覚は、自分を抱きしめる彼の温もりを。

あぁ、愛しい。
感覚の全てが、ハインリヒという存在にそう言う。

「アル?どうした」
「あのね、」
「あぁ、何だ?」
「もし…もしも、オレがハインのことを忘れてしまっても、きっとハインでなければいけないって思うんだ」

2人で過ごした記憶の全てを失ってしまったとしても。
身体が彼の温もりを忘れてしまったとしても。
“誰か”と。
「誰か、助けて」と。
いまだ襲い来る過去の刃と、自分から乖離してしまった少年の頃の自分が告げる残酷な現実の重みから、「助けて」と叫ぶだろう。
“誰か”ではなく。
顔も名前も温もりも何もかも忘れてしまったとしても、彼の手を求めて叫ぶに違いない、と思う。

平等を愛する救世主とやらが気まぐれな優しさを差し出してきたとしても、自分はきっとそれを拒むだろう。
あれほど、欲していたものを。

「もしも、オレの眼が何も映せなくなったとしても…ハインのことだけは見えると思うんだ」
「アル…」
「だって、今も見えているよ。眼を閉じていても、分かる」

瞼の裏に、微かに感じる光。
それは、ツリーのイルミネーションのものかもしれない。
あるいは、街の明かりかもしれない。
月のそれかもしれない。
だが、アルフレードにはそうではない別の光が、確かに見えていた。

「オレを導いてくれる光があるから。あのときのように…」

そこは、暗かった。
自分の姿すら見失ってしまいそうになるほど、深く冷たく、目が眩むほどの真っ白な闇に包まれていた。
しかし。
そこは、明るかった。
彷徨い歩くことすらも疲れてしまった身体を誘うように、優しく温かく、あらゆるものを迎え入れる陽だまりがあった。

「世界の中のそこだけが…そこには、光が集っていた」

太陽のように刺々しいものでも、月のように冴え冴えとしたものでも、蝋燭のように淡く危ういものでもない。
ましてや、イルミネーションのように華やかなものでもなかった。
ともすれば見落としてしまいそうなほど小さく。
しかし、目を逸らしたところで視界から消えはしない大きなもの。
それが、あの日。
“誰か”ではなく、彼でなければいけなかったのだと知ったあの日。
彼と出逢ったあの夜に見た、光だった。

激しい雨の中、耳鳴りと頭痛と熱と、そして、疼痛に苛まれながらも。
前へ前と進んでいくことを望んだ足が向かった先。
何かに導かれるように向かった暗く細い路地の先に在ったもの。

「それが今も、ここに在る。だから、オレはハインを見失うことなんてないんだよ」

ツリーを彩るイルミネーションの明かりが、アルフレードの金糸の髪に降る。
蜂蜜を垂らしたかのように甘いそれは光を食み、一層甘く煌めく。
ハインリヒはそれを一房手に取り、そっと唇を寄せた。

「俺にも見えている」
「光が?」
「あぁ、美しい光だ。見失うことも、見間違えることもありえない」

生きている意味、そのもの。
己の存在意義、そのもの。
世界が存続する理由、そのもの。
それほどの存在と出逢い、恋をし、愛し合うという必然にも似た偶然を齎した奇蹟そのもの。

魂から一切の記憶が消えてしまったとして。
再び意味のない世界を生きることになったとして。
あるいは、虚無ではない何かを掴んでいたとしても。
その光が添えられた道標の先へと手を伸ばすだろう。
そして。
迷いも、躊躇も、恐れもなく。

「お前が拒んだとしても、俺はお前を火の雨が降る場所へと堕とすだろう」

傲慢で、不遜な想い。
決して、正しくはない。
だが、アルフレードには、ひどく甘い睦言に聞こえた。
いや、事実。
神の教えを背いて愛し合った者たちが堕とされるという火の雨が降る場所、煉獄は、アルフレードにとっては祝福の場所。
自然の摂理に逆らい、それでも、愛する人と生き抜いた限られた者だけが受けることのできる、灼熱の炎の言祝ぎが降り注ぐ場所なのだから。

「……し、い…」
「ん?」
「ハインが、愛しい…」

瞳を閉じ、口許に微笑を浮かべるその表情は幸福を噛みしめているかのように穏やかで。
それを見つめるハインリヒは、己の鼓動が跳ねるのを抑えようがなかった。

「…アル、」
「なぁに?」

長い睫に縁取られている瞼がゆっくりと上がり、鳶色の瞳が現れる。
唇と同様に饒舌な彼のそれが紡ぎだす睦言に、胸が締め付けられた。
微かな痛みを伴うそれを“イトシサ”と呼ぶのだと知ったのは、いつだったか。

自分を振り仰ぐアルフレードの身体をくるりと反転させ、向き合う。
その隙間を狙っていた夜風が体温を奪おうと近付いてきたが、構う余裕などない。
人差し指で彼の顎を掬い、衝動のまま唇を塞ぐ。

「…ん、んぅ…っ」

噛み付くような、と表現すべき荒々しい口付けは、それでも奪うのではなく、酸素を分け与えるかのように優しいもので。
獰猛な獣の精一杯の優しさを一身に享受しているのだという事実に、アルフレードは薄く唇を開いた。
すかさず入り込んでくる彼の舌が咥内を犯す。

(ハインの味がする…)

味覚が捉えたそれに、愛しい、と思う。
たとえ五感の全てを失ったとしても、記憶を全て失ったとしても。
あるいは魂が何度巡ったとしても、自分の細胞はきっとそう感じるのだろうという確信は揺らぐことがない。

唇がそっと離れ、2人分の唾液で濡れた口端を舐め取られる。
その仕草は、腹を空かせた野性の獣が餌を前に舌なめずりしているかのようで。
捕食者に捕われた非捕食者であるアルフレードは、背筋が粟立つのを感じた。
本能的な恐怖と歓喜が込み上げ、細胞にまで染み込んでいく。

「ハイン、」
「何だ?」
「もう一回、キスして」

語尾が風に流されて消えるよりも早く、再び唇が塞がれる。
貪るような口付けは荒々しく性急で。
しかし、それ以上にハインリヒの体温と鼓動の速さが饒舌に告げてくる愛の言葉は優しく。
非捕食者となったアルフレードは、捕食者に身を委ねた。




端正な顔立ち、深海色の瞳、存外に長い睫、艶やかな黒髪、薄い唇。
そこにいるだけで空気をも従わせ、統率者として頂点に君臨する男。
広大なサバンナに生きる獣たちの王のように、怜悧な威厳を纏ったその姿はどんなに美しいものだろう、と思う。

(きっと、この人はどんな場所でも綺麗なんだろうな…)

たとえば、絶望しか残されていない凄惨な戦場であったとしても。
たとえば、闇に支配された孤独な世界の中であったとしても。
願いも希望も尽く踏み躙られ、血塗れで地を這うことになったとしても。
一切の翳りなく、何人にも穢すことのできない光を宿したその眼差しは揺らぐことなく、真っ直ぐに前を見据えるだろう。
どれほど残酷な現実であったとしても、真正面からそれを射抜くその姿は気高いに違いない。

(真正の、王たる人)

無意識の内に伸ばした手が、ハインリヒの頬に触れる。
するりと撫でれば、その手を彼のそれに捕えられた。

「アル」
「うん」
「今、何を考えている?」
「ハインのこと」

アルフレードのその応えに満足したかのように、ハインリヒは口端に微笑を乗せる。
白いシーツに溶け込む白い肌には徐々に朱が差し、あどけなさが先立つことの多い鳶色の丸い瞳の中に、目を瞠るような艶が滲んでいく。
極上のワインによく似た芳醇な色香が、熱情を煽る。
心臓が痛むほど拍動し、熱い血液が指先までもの凄い勢いで流れていくのを感じた。

ぞくり、と。
己の内側から込み上げてくる欲望に、肌が粟立つ。

(貪り食い尽くしてしまいそうだ…)

餓死寸前の獣のように、激しい空腹感が獰猛さを伴って胸の押し広げていく。
目の前に差し出された極上の獲物を前に、理性の糸が悲鳴を上げる。

それは、激しく。
苛烈で、禍々しい感情で。
自分自身のものであるというのに、恐怖にも似たおぞましさを感じるほど。
奥歯を噛みしめることで疼く牙を抑え込み、理性の糸を何とか手繰り寄せる。

「アル、」
「うん、いいよ」
「……お前は、俺を許し過ぎだ」
「だって、ハインだもん」

微苦笑を口端に乗せたハインリヒに、アルフレードは再度、「いいよ」と繰り返す。

そこに、多くの言葉は要らない。
どんな状況にあったとしても、どんな場所にいたとしても、互いの音なき声が届く。
耳ではなく、胸の真中に。
愛しい、欲しい、大切にしたい、奪い尽くしてしまいたい、傷付けたくない。
そんな言葉を。
1万の言葉を遥かに上回る言葉を紡ぐ饒舌なブラックサファイア色の瞳を見つめ返しながら、相好を崩す。

「オレを傷付けたって、いいんだよ。傷付かない恋なんてないし、痛みを伴うくらいでちょうどいい」
「アル…」
「それに、ハインはオレの心を傷付けない。だから、いいんだよ」

与えられた許しに縋るかのように、いささか乱暴に唇が塞がれる。
呼吸を奪われ、思わず怯んで逃げた舌を追い詰められていく。
飲み込み切れなかった2人分の唾液が伝うのを感じながら、いまだ行為そのものに慣れなくも、与えられる愛撫を受け入れることには慣れた身体が、熱を帯びていった。

「っ、は…ふ…ぅ、」
「悪い、大丈夫か?」
「…ん…へ、き…」

酸欠でぐったりとしてしまったアルフレードの身体はシーツに溺れ、足りなくなった酸素を求めて胸が上下する。
唇を濡らす唾液を指で拭い、ハインリヒは自嘲の混じる苦笑を内心で落とした。
切れかかった理性の糸を結び直し、呼吸のリズムを整えさせるように髪を梳く。

しかし、アルフレードにとってはそれすらも愛撫で。
指先がジンと痺れるのを感じた。

「ぁ、ふ…、」
「アル。悪いが、あまり余裕がない」
「ん…いい、よ。オレも、早くハインが欲しい」

ハインリヒの熱い掌が肌に触れ、鼓動が跳ね上がる。
欲しい、と訴えてくる彼の眼差しを受け止め、欲しい、と返す。
それこそ、想いを奪い合うように。
熱を求め、与え、奪い、そうして、共有する。

「は、ふ…っ、ん…ぁ、や…ぁ」
「まだ堪えろよ」
「ん、んん…っ、ぅ…も…む、り…ぃ、」

生理的な涙を滲ませながら首を横に振れば、ふるふると小さく震える熱に与えられていた愛撫の手を止められる。
解放まで寸でのところでその道を奪われ、行き場を失った熱が血管を逆流していく。
血管が破れてしまいそうな勢いで、その中を熱い血液が流れていくのを感じる。
そして、それは全身を巡り、解放を求めて再び元の場所に戻って来る。

身体を震わせ、じわじわと侵食していく快楽に堪えているアルフレードの姿に、ハインリヒは己の中に飼う獣の低い呻き声を上げるのを聞いた。
眉根を寄せ、奥歯を噛みしめる。
だが、もはやそれだけでは抑えきれない情動が細胞を揺さぶる。
酸素や水を求めるよりも激しく、切実で、本能的な情動が。

「アル、アルフレード」
「ん、っ…あ…はい、ん…ッ」
「そうだ。そのまま、俺を見ていろ」

無垢なようでいて、残酷な現実を見つめてきた瞳。
だからこその輝きを宿す鳶色の瞳を見つめながら、ハインリヒは昂ぶりを彼の秘所に宛がった。

「ッ、ぅ…あ…く、ぅ、んん」
「眼を閉じるな。俺を見ろ、アルフレード」

つ、っと眦から零れ落ちた涙を舐め取る。
そして、行為そのものにいまだ慣れない身体には過ぎる快楽に抗うアルフレードに、己の熱を捩じ込んだ。

しかし、それは乱暴なものではなく。
いっそ一思いに貫いてくれ、と懇願したくなるほどに緩やかで。
外側から徐々にじわじわと喰われていく感覚に、アルフレードは戦慄いた。

「ひ、ぁ…ッ、ぅ…あぁ、っ」
「アル、息を詰めるな。全て挿れるぞ」

こくこくと頷いた拍子に、眦から新たな涙が零れる。
それにさえ欲情する己の獣の貪欲さと傲慢さに内心で何度目かの自嘲を落とし、僅かに手の中に残った理性を見失わないように握り込む。
そうして、ゆっくりと。
彼自身でさえも触れたことのない彼の最奥へと、己の昂ぶりを押し進めた。
絡みつく襞に、熱を喰われる。

「く…ッ、」

ぱたり、と額から流れた汗が頬のラインを伝い、顎の先端から落ちる。

(持って行かれそうだ…)

いや、全て持って行けばいい、と思う。
自分の全てを、彼に持っていて欲しい、と。

多くのものを、掴むはずだったものを尽く理不尽に奪われてしまった彼の両の掌の中が、自分でいっぱいになってしまえばいい。
それこそ、自分の1秒が彼にとっての1秒と同じものになるように。
自分の拍動が、彼のそれと重なるように。

「あ、ふ…ゃ、あ…なか、が…」
「アル?」
「オレのなか、が…ハインでいっぱい」

自分の臍部を撫でるアルフレードの頬に、満足そうな笑みが浮かぶ。
それはまるで、この世の全ての幸福を掻き集めたかのようなもので。
心臓から下腹部が締め付けられたように痛む。

「ちゃんと、気持ちいい?」
「…あぁ。あぁ、とても気持ちいい」

身体の快楽ではなく。
心が満ち足りる快楽。
そんなものがあると、彼と出逢わなければ自分は一生知ることがなかったに違いない。

愛する者に愛される。
そんな幸福があることを。

「オレも、気持ちいいよ。心が…trionfante」

嬉しい、と。
これ以上にないほど優しげな声で紡ぐアルフレードに、呼吸ができなくなるほどの痛みが心臓を襲う。
疼痛を伴う歓喜が、全身を駆け巡る。

「アル、アルフレード…俺の最愛」

持て余すほどの愛しさに、気が狂いそうだ。
胸を掻き毟り、いっそ抉り出してしまいたいほどの歓喜と愛情が募っていく。
許容量を遥かに超えたそれは、やがて溢れ出し、内側からアルフレードを侵食していった。

奪い、奪われ、求め、求められ。
一方の熱が相手の熱を食めば、その熱も相手の熱を食む。

「っ、あ…あ、ふ…ッ、ん、は、はぁ…ッ、んん」
「アルフレード…っ」
「ふ、は…ん、や、ぁ…あ、あぁ…ッ」

晒された白い喉元に唇を寄せ、同時に、開放を求める昂ぶりを最奥の更に奥へと突き入れる。
内臓を押し上げられるその圧迫感に、アルフレードの口端から悲鳴に近い嬌声が零れ、その甘い声がハインリヒの耳朶を犯す。
そうして、行き場を求めていた互いの熱が混ざり合い、白濁と共に解放された。

その瞬間、瞼の裏に見えた光は、果たしてどちらのものだったか。
決して見失いはしない、見間違えもしない、唯一の光。
より光ある方へ、と。
より幸い溢れる場所へ、と。
誘う道標に添えられた美しい光。
それに手を伸ばせば、同じように伸ばされてきたそれと重なる。
触れることも、掴むこともできないはずの“光”というものを、繋いだ手の中に感じた。




「…ん、ぅ?」

瞼の裏に微かな光を感じ、アルフレードは重たいそれを押し上げる。
倦怠感が纏わりついてくる肢体は思うように動かず、辛うじて動く首だけをそれを感じた方へと向けた。

「アル、気が付いたか」
「…はいん?」
「あぁ。無理をさせたな。辛いところはあるか?」
「ん、へーき」

過ぎる快感に意識を飛ばしてしまったのだと気付き、頬が朱に染まる。

今更と言えば今更だというのに。
そんな初心な反応を見せるアルフレードに苦笑し、ハインリヒは彼の金糸の髪を撫でた。
蜂蜜を垂らしたかのように甘く煌めくそれを梳き、前髪を指先で払う。
露わになった額に唇を寄せ、擽ったそうに身じろぎながら小さく笑うアルフレードを眩しいものでも見るかのように瞳を細めて見つめる。

それは、ごく限られた者のみが。
いや、アルフレードのみが見ることのできる、穏やかで優しい表情。
彼自身でさえ、そんな表情をしていると自覚などないだろうそれに、アルフレードもつられて微笑を浮かべる。

と、その視界の端に、微かな光が入った。

「?」
「どうした?」
「今、何か光ったような気がして…」
「…あぁ、これか」

上体を起こし、サイドチェストに腕を伸ばすハインリヒの動きを目で追う。
シーツに足を取られながらも、情交の余韻が纏わりついている身体を何とか起こす。
鈍痛が圧し掛かっている腰を労わるよう回されてきた彼の手に体重を委ね、その手元を覗き込む。

「直にツリーも片付けなければいけないからな」
「?」
「だが、これなら年中出しておいてもいいだろう?」

そう言って差し出されたのは、スノーグローブ。
人形や建物などのミニチュアと雪に見立てたものを入れた透明の容器の中を水で満たし、容器を動かすことで雪が降っている風景を作りだすものだ。
その形から、“スノードーム”と呼ぶ国もあり、今では世界中にコレクターが存在する置物の一種である。

小型なものが多いのだが、手渡されたそれはずしりと重たかった。

「これ…」
「毎年、ツリーを片付けると寂しそうにしているからな。来年のナターレまではこれで代用しておけ」

そう言うハインリヒを見上げ、アルフレードはぱちくりと瞬いた後、ふわりと花が咲くように笑みを浮かべた。
そして、両手で包み込めないほどの大きさがあるそれに視線を移す。

「綺麗…」
「気に入ったか?」
「うん、とっても。ありがとう」

ドーム型のそれを傾け、元の位置に戻す。
すると、底に沈んでいた雪が水中を漂い、剣を掲げた天使のミニチュアの上に降り注いでいく。

「ハインはやっぱり、オレに甘すぎるよね。ツリーを片付けた後は、ちょっと寂しいなって思っていただけなのに…」
「少しでもアルが寂しいと思うのなら、俺はそれを取り除いてやりたいからな」

当然だろう、と言わんばかりに頭を撫でられ、アルフレードは口端に微苦笑を乗せた。
際限がない、と思う。
その深甚な想いの大きさに怯んでしまいそうになるほどに、大きく、深く、広い。

「このドームの中の天使は、大天使ラファエル?」
「あぁ」
「でも、翼が片方しかないよ」
「それは、これが俺の最も愛している天使だからだ」

癒しの力を持ちながら、ときには苛烈に戦うことを厭わない炎の剣を携えた勇敢な片翼の天使だ。
そう続けたハインリヒの手が、頬を撫でる。
その手に促されるように顔を上げれば、冬の深い海の色を宿した瞳の中に自分の姿が映り込む。

「この天使のように、お前の上にも等しく光が降り続ければいい」
「ハイン…」
「アルの歩む道に、降り積もっていけばいい」

祈りの言葉を紡ぐように。
いや、それはまさしく、祈り。
切実な、祈りの言葉だ。

「ハインがオレの名前を呼んでくれる限り、その祈りはハイン自身が叶えてくれるよ」

頬に宛がわれている彼の手の上に自分のそれを重ね、どちらからともなくその手を繋ぐ。

「どうか、」
「光あれ」

同じ祈りを、同じ願いを胸に。
厳かで神聖な儀式かのように、ゆっくりと瞳を閉じ、唇を重ねる。

その瞬間に、ちかちかと視界の端に入った光の粒は、ドームの中で漂う雪を模した何かのものだったか。
それとも。
彼らの手の中に捕えられたそれのものだったか。
ダイヤモンドの粒を一身に浴びながら水中で微笑む片翼の天使だけが、それが彼らの上に等しく降り注いでいく様を見ていた。

  此処は光降る場所、其処は光集う場所


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***
ギリギリ滑り込みセーフで、Buon Natale!
日本では25日はあと5時間くらいしかないけれど、イタリアはまだ日付が変わったばかりだから大丈夫!

今年のナターレ企画本は当社比でいちゃいちゃが1割減だったので、ここにいろいろぶっこんだら、互いに互いを甘やかしているだけになりました。
“クリスマスデートを楽しんだ彼らの夜篇”という時間軸なので、ナターレ企画本をお持ちの方は、「あー、あの後はこうなっていたのね」とにんまりしてください。

では、出会えた全ての人に感謝と愛を込めて。光あれ。祝福あれ。
そして、来年もあなたに彼らを愛してもらえますように。

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