スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
管理者にだけ表示を許可する

この記事のトラックバックURL

http://storiaeterna.blog10.fc2.com/tb.php/268-349370f3

預言者の知らないジェネジ 70,000colpire記念

神ははじめに、形のない虚しい地に「光あれ」と言われた。
するとそこには光が生まれ、神はそれと闇を分け、光を昼と名付け、闇を夜と名付けられた。
これが、朝と夕が創造された第一日である。




1日目。
使い慣れたカードキーで開錠したドアの向こうに、明かりがあった。
廊下に点る皓々とした照明に、家を間違えたのだろうかと思ったほど。
それほどに、それはありえない光景だった。

「2日目は、廊下の壁に絵が飾られた」
「絵、ですか?」
「あぁ。最初は確か、空の絵だった」

歴史の流れを感じさせる古い街並みの頭上に戴かれた、雲ひとつない澄んだ空の絵。
まるで、こことは別の小さな世界がそこにあるかのようなその絵は、無機質な白い廊下の壁に飾られていた。

「3日目は、植物だ」

瑞々しい緑の葉を広げた観葉植物。
それは、必要最低限の物すらもなかった殺風景なリビングを彩るには十分な存在感を放っていた。
キッチンのカウンターに飾られていた切り花はさりげなく、しかし、ただの四角い箱だったものに確かに色彩を与えた。

観葉植物の名前も、ましてや花の名前も知らない。
だが、花とはこういうものだったのか、と初めて知った気がした。
豪奢なホテルのロビーに飾られた華美なものに比べれば、質素とも言える数輪の切り花。
しかし、質素でありつつもどこか優しく温かな印象を与えるその姿に、美しいと初めて思ったのも事実。
自分が今まで見てきたものは、故意に加飾された哀れな花だったのか。
この姿こそが、彼らが持つ本当の美しさなのだろう、と。

「4日目は…そうだ、初めてバルコニーに出た」
「確か、その日は休暇でしたね」
「あぁ。それで、ブランチをバルコニーで食ったんだ」
「それは実に穏やかな休日だことで」
「あぁ、あんな休日は初めてだった」

燦々と降り注ぐ陽光の下で食事をして。
コーヒーを飲みながら、太陽が帰路に向かうまで風と共に過ごした。
洗い立てのシーツやシャツが悪戯好きなそれと遊ぶ声を聞きながら、何をするでもなく、多くを語り合うでもなく、ただ時間を過ごしたのだ。
いっそ手持無沙汰とも言えるようなその時間は、どこか心地良かった。

たとえるならば、束の間の休息。
走り続けることしか知らなかった身体と心に不意に与えられたそれを戸惑いながらも、やはり欲していたのだろう。
疲弊していなかったのではなく。
自分は、疲労を受け入れる余裕さえなかったのだ、と気付かされた日でもあった。

「寝ていたのには驚いた」
「ボスがですか?」
「あぁ。太陽の下で…誰かが居る前で寝たのは、何十年振りだったか」
「日光浴ですか」
「目が覚めたときに身体が軽くなった気がした」
「蓄積されていた疲労が取れたのですね」
「あぁ、まさにそれを実感したものだ」

可能な限り張り詰め続けていた神経は緩み、ガチガチに凝り固まっていた精神が微温湯に解されたかのような。
安堵という感情に近いものがそこにはあった、と思う。

牙を剥き出したまま、全力で荒野を駆け続けることなどできない。
だが、それを知らずに。
いや、知ろうともしなかった精神は、それでも本能的に限界を感じていたのかもしれない。
あらゆる警戒心を解き、無防備に曝け出して微睡んだあの時間に、ひどく安堵したのだ。
それは、安心感とも言うべきなのだろう。
幼子が母の腕の中で感じるような。
あるいは、獰猛な獣が午後の木陰で感じるような。

「その夜は、初めてあの場所から月を見た」
「あそこは月見の特等席でしょうね」
「あの日まで知らなかったがな」

月はいつだってそこに在ったことすら。
星々は闇の中で生き、やがて太陽が帰って来ることすら。
“理解”はしていても、“知らなかった”。

自分の横を通り過ぎるだけだった他者には、通り過ぎるだけの存在ではない者がいることを。
変わらずに過ぎていくだけだった季節や時間も。
決して、それが当たり前ではなかったことを。
知らなかった。

「5日目は、鳥だ」
「鳥?」
「マンションの最上階まで飛べるものなんだな」
「飛べない高さではないと思いますが、遭遇することは少ないでしょうね。それで、鳥がいかがしました?」
「バルコニーで戯れていた」

日当りのいいバルコニーで始めた家庭菜園の手入れをしながら、同居人が鳥と会話をしていたのだから驚くのも無理はない。
羽を休めに来ただけなのだろうが、さも旧知の仲であるかのように彼の隣に並んでいたのだ。
彼の語りかけに歌声で返し、それにまた返せば、歌う。
何と反応すべきなのか悩み、立ち竦むという経験は初めてだったな、と改めて思う。

「アルには気付かされ、驚かされることばかりだ」

そう呟いた己の声がひどく穏やかな音色だったことには気付かず、ハインリヒは車窓に視線をやった。
後ろへと流れていく見慣れた街並み。
しかし、そこに老夫婦が営む花屋があることも、小さな女の子が看板娘のパン屋があることも、知らなかった。
朝にはマーケットが立ち並ぶことも、昼には子供たちが駆け回り、夜には酒を楽しむ人々で賑わうことも。
知らなかった。
知ろうともしなかった。

行き先を告げずとも自分が居るべき場所へと運ぶ車の中から見てきた景色と、今見ている景色は同じものであるはずなのに。
何もかもが変わって見える街並みを見送る。
そして、彼と。
アルフレードと出逢わなければ、きっと今も、この街並みは色を失ったままだったに違いないと思う。

「彼と暮らすようになり、そろそろ1週間ですか。さすがに、慣れたのではありませんか?」
「そうでもないさ。慣れないことばかりだ」
「おや、それは珍しい」
「何もかもが非日常的だからな」

“自宅”と呼ぶ場所に向かうことですら。
それも、日付が変わろうとしている頃に、執務室の隣に仮眠室を持つ自分がわざわざ帰宅しなければいけない理由はなかった。
シャワー室も着替えも整っているのだから、眠るためだけに帰宅する必要がなかったのだ。

それが、今。
6日目の今日。
街もすっかり眠っている深夜に、帰宅のために車中にいる。
数日前の自分にとっては、ありえない行為だろう。

「…慣れないな」

己の行動にか。
それとも、その行動の根源との日々にか。
どちらとも取れる呟きは、それでも穏やかなもので。

バックミラー越しに己の上司を見やったフルアは、ステアリングを握りながら口端を微かに緩めた。
変化に戸惑いながらも、それを楽しむ余裕が出てきたことに本人は気付いているのだろうか。
慣れないと呟きながらも、車窓に見えてきた自宅のマンションを見つめる眼差しがひどく優しげなものであることを。
きっと、気付いていないだろう。

「明日は早めにご帰宅していただけると思いますので」
「…そうか」

起きている内に帰れるといいんだが。
ぽつり、と車窓に視線を向けたまま呟かれた一言に、フルアはマンションの車寄せにステアリングを切りながら、口端に乗せた微笑を濃くした。
この人にもようやく、帰りたいと思える場所が見つかったのか。
そう思いながら、ハインリヒの背中を見送った。




そして、7日目の夜。
玄関に灯る明かりと鼻腔を擽る美味しそうな料理の香りに足を止めた。
いや、笑顔で自分を出迎える存在を前に。
誰かにとっては当たり前のことのようで、自分にとっては非日常的な“異質”なその光景に。
使われることのなかったカードキーを手に持ったまま、ハインリヒは内側から開けられたドアを潜るのを一瞬躊躇した。

「おかえりなさい」

何十年と耳にしていなかった言葉に内心で戸惑いながら、表面上は何とかポーカーフェイスを保ち、「あぁ」と短く返す。
「おはよう」には、「おはよう」を。
「おやすみ」には、「おやすみ」を。
「おかえり」には、「ただいま」を。
返すべき言葉は知っている。
しかし、言い慣れない単語は喉に引っかかり、いまだ上手く紡ぎ出すことができずにいた。

それでも、乾いた唇で何とか音にすることはできるようになった。
ぎこちないながらも、「ただいま」と小さく返す。

「うん、おかえり。お疲れさまでした」

嬉しそうに自分の返事を聞くアルフレードに、不思議な感覚に包まれる。
それは、どこか懐かしくもあり、新鮮なもので。
硬質で無機質なビルの最上階にある己の執務室では到底感じることのできないものだ。

たとえるならば、日向の匂い。
移り変わる季節など己の横を通り過ぎていくだけのものだと見向きもしなかったが、春とはこういうものか、と思う。
眼を灼く夏の陽射しに晒されることもなく、秋の澄んだ空の色を知ろうともしないで、冬の刺すような風に凍えることもなく。
そうして、やがて巡り来る春の日向が、これほどに暖かいものだとは。

「すぐにご飯にしてもいい?」
「……」
「ハイン?」
「あ、あぁ…頼む」

今夜はシチューだよ、と笑顔を浮かべるアルフレードに何と返すべきなのか考えるも、持ち得る語彙の中に適したものが見つかるはずもなく。
それでも首肯で返せば、アルフレードはたったそれだけの反応でも満足したように笑みを重ねる。

「すぐに温めるね」

そう言い、徐にアルフレードの両手が差し出される。 
返すべき言葉ひとつも持たない自分が、彼のその唐突な行動の意味が分かるはずがない。
彼は一体何を求めているのだろうか、と内心で困惑する。

こんなとき、感情を表情に出すことができたなら、と思う。
元来、感情の起伏は少なかったが、歳を重ねる毎に忘れてしまったいくつかの感情と表情の出し方を思い出させてくれ、と柄にもなく過去の自分に語りかけてしまう。
当然、返事も記憶が還ることもないが。

「…アル?」
「なぁに?」
「その手は…」
「え?あ、鞄ちょうだい」
「は?」

何故、自分の鞄が欲しいのだ。
困惑と戸惑いに思わず言葉を失くすが、アルフレードはどこか楽しそうな笑みを浮かべながらハインリヒの手にある鞄を求めている。
一体何なのだと訝しむも、しかし、その要求を拒む理由もなく。
それが彼の望みならば、と鞄を彼の手に渡してやれば、ノートパソコンと書類が入っている重たいそれを彼は至極大切そうに抱きかかえた。

「シチューは鶏肉だから、白ワインがいいかな?」
「…そうだな」
「準備するから、座って待っていてね」

上等な革だね、と抱きかかえた鞄を撫でるアルフレードに、革の感触を確かめたかったのだろうか、と思いながら。
綺麗な蝶の形に結ばれたエプロンの紐を。
いや、リビングへと促す彼を追った。

(妙な感覚だな…)

誰かに迎えられる。
それは決して、珍しい光景でも稀有な体験でもない。
ホテルに泊まればホテルマンから最高のサービスで迎えられ、レストランでは支配人から恭しく迎えられる。
ビジネスの相手でさえ、腰を折って自分を迎える。
だが、それとは全く違うものだ。

“自分”だけを待ち、“自分”の帰りを喜び、“自分”だけを迎え入れる。
そんな存在の気配に満ちた空間に、足を踏み入れる。

「今日ね、八百屋のおじさんがトマトをおまけしてくれたんだよ」
「広場のマーケットのか?」
「うん。パン屋のおじいちゃんは腰を痛めてずっとお休みしていたんだけれど、今日からまたお店開けていたんだ」
「そうか」
「おじいちゃんのバケットはとっても美味しいから、明日の朝食は楽しみにしていてね」

住み慣れた街の身近にあるマーケット。
行き先を告げずとも、自分を同じ場所に運ぶ車中から見えていたはずの光景。
だが、一度として訪れたことのなかったそこに集う人々の営みが、彼の豊かな言葉によって描かれていく。

「それでね、」
「あぁ」

虹が出ていた。
プランターの花が咲いた。
そろそろ季節が変わりそうだ。
アルフレードの語る言葉は全て、当たり前のようにある情景を描くものばかり。

だが、自分は今まで空に虹が描かれているのを「綺麗だ」と感じたことはあっただろうか。
咲き誇る花を見、「やっと咲いた」と喜びを感じたことがあっただろうか。
風や空の色や雲の形で、季節が移り変わっていることを感じたことがあっただろうか。

「それで、3階に住んでいるおばあちゃんがね、」
「あぁ」
「……」
「…アル?どうした」
「あ、ごめんね。オレばっかり喋って…お仕事で疲れているのに…」

しゅんと眉を垂らして微苦笑するアルフレードに、持っていたスプーンを落としそうになる。
彼にそんな顔をさせたくはない、と心のどこかに棲んでいるもう1人の自分が叫ぶ声が聞こえた気がした。
何故、と思う。
他者を他者とも認識せず、全てが自分の横を通り過ぎていくだけのものだったはずだ。
それなのに何故、彼の笑顔が翳ることが、こんなにも苦しいのか。

その答えをとうに知っているはずの自分自身から目を逸らし、スプーンを置く。

「アル、その…俺は、こうして誰かと過ごしたことがない」
「え?」
「だから、何と返せばいいのか分からないことばかりだ。情けないが…」
「う、うん?」
「だが、これだけは言える。お前の話を聞くこの時間は、心地良い」

鳶色の瞳を丸くするアルフレードのあどけない表情に内心で苦笑し、持ち得る語彙を掻き集める。

「上手く言えないが…アルが俺を待つこの場所に帰ってくることが、とても心地良い」

アルフレードが何をしていたのか。
何を見、何を感じ、何を聞き、何を考え、何を想ったのか。
他愛のないことばかりだが、その他愛のないことを聞き、知ることが胸の中を満たしていくのだ。
それは、確かなこと。

「聞かせて欲しい」
「オレの、話?」
「あぁ」
「ハインのことも話してくれる?」
「俺の?」
「そう。お昼に食べた物とか、行ったことのある国の話とか」

綺麗だな、と感じたもの。
美味しい、と感じたもの。
そういうものを教えて欲しい、と続けるアルフレードに、一瞬、そんなことを知って何の意味があるのだと思ってしまう。

だが、ふとその答えに気付く。
かつての自分には、決して気付けなかったことに。
あぁ、彼も自分と同じなのか、と。
同じように、自分と過ごす時間を心地良く感じてくれている。
同じように、知ることで胸を満たしてくれているのか、と。

「…そうだな。それじゃぁ、世界中を飛び回っていた頃の話でも」
「うん。聞きたい」
「休暇が取れたら、マーケットに行こう」
「広場の?」
「あぁ。お前がいつも話してくれるものを、この目で見てみたい」
「うん!一緒に行こう。ハインと一緒に見たいもの、たくさんあるんだ」

嬉しそうに笑むアルフレードを見つめ、今更ながらに、「帰って来た」と実感する。
マンションという物理的な場所にではなく。
心から、帰りたいと願った場所に。

あぁ、そうか。
ここは、“自分”が帰る場所。
久しく名前で呼ばれることもなく、毎日嫌と言うほど書き記している自分の名前を他人のもののように感じていた。
そんな“自分”を、確乎たるものにする場所。

(見つけた…)

神と名乗る者がたった7日間で創ったこの世界は、不完全で欠陥だらけだ。
だが、それでも。
その世界の中で、探していたものを。
出逢わなければいけなかった存在を、見つけた。
そして。
帰るべき場所を、見つけた。

「ニューヨークに行ったことはあるか?」
「ううん。ないよ」
「それなら、あの街の話をしようか」

嬉しそうに満開の笑顔を見せてくれるアルフレードに思わずつられ、口端が緩む。
同時に、陽だまりが胸の中に広がっていく。
自然と身体から力が抜けていき、何を掴めばいいのか分からずに握り締めていた拳が解かれる。

その掌が、何かに触れた気がした。
いや、確かに掴んだ。
意味などなかった世界が存在していた理由を。
この夜、確かに手に入れた。




闇と光が生まれ、神は次に空を創り、天と名付けた。
そして、その天の下に広がる水を一ヶ所に集め、海と乾いた陸と分けた。
更に、陸に草と実を結ぶ木を植えた後、神はまた言われた。
「天の大空に光があって昼と夜とを分け、しるしのため、季節のため、地を照らせ」。
そうして生まれた大きな光には昼を、小さな光には夜を司らせた。
後に、太陽と月と呼ばれるものが生まれると、神は海に生きるものと空に生きるものを創った。
それを祝福した神は陸に生きるものも創り、そして、また言われた。
「我々の形に象って人を造り、これに海の魚と、空の鳥と、家畜と、地のすべての獣と、地のすべての這うものとを治めさせよう」。
そして、神は最後に獣と家畜と人を、人は男と女に分けて創った。
こうして、天と地とその万象が完成し、神は第七日に全ての作業を終えて休まれた。
これが、天地創造の由来である。

  では、ここからはとある五つの書を記した者も知らない書物のお話をしましょうか


web拍手 by FC2


→おまけのお題「誰かについて座談会 70,000colpire記念

***
7万hit、ありがとうございます!
いつも足を運んでくれる方にも、初めて来てくれた方にも、感謝感謝。

いつか使いたいと思っていた「7日間」ネタがやっと使えました。
それにしても、ダメ人間時代(アルと出逢ったばかりの頃)のハインがアルと始めた同居初日からの7日間を彼に語らせるのは苦労しましたよ…。
なかなか喋ってくれなくて…。
「お前、よくそれでCOOなんてできるな」と思いながら寡黙な(というか、語彙が少ない)彼に頑張って喋ってもらいました。
今の彼だったら、ペラペラとアルを口説いてくれるのに…。

*ブラウザを閉じてお戻りください


スポンサーサイト
管理者にだけ表示を許可する

この記事のトラックバックURL

http://storiaeterna.blog10.fc2.com/tb.php/268-349370f3

  


  一行の物語(1h毎に入替)

頁の外にある物語(小話部屋)

小ネタブログ[eterna allegato]

もう1つの物語(創作BL小説)

創作物語の別巻ブログ[arcobaleno]

  「物語」の頁を繰る人々

  

Designed by

Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。