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誰がためのモラーレ 6

目の前に晒されている喉仏がこくんと上下し、彼が口に含んだそれを嚥下したことは明白で。
アルフレードはぱちくりと瞬いた後、襲ってきた羞恥に目許まで赤く染めた。

「の、飲んだ…?」
「あぁ、当然」

しれっと言ってのけるハインリヒにそれ以上の反論や抗議は無駄だと分かっていながら、アルフレードは彼の咥内に熱を放ってしまったこととそれを躊躇なく嚥下されるという羞恥に、身を捩った。
弛緩し、ぱたりとシーツの上に落ちた腕を何とか気力で持ち上げ、赤くなった顔を隠す。

初めてのことでも、稀なことでもないというのに。
いまだ情事に慣れない初心なアルフレードのその反応は、ハインリヒにとっては愛らしいものでしかなく。
口角を緩く上げる。

「こら、可愛い顔を隠すな。何もそこまで恥ずかしがることはないだろう?」
「や、やだ…も、ハインのばか…っ」

眦を赤く染め、清純な鳶色の瞳は艶やかに潤み、清らかそうな唇は唾液で濡れ、白い肌には欲望の赤い花が咲き乱れている。
紡がれる声はひどく嬌艶で、扇情的で。
捩った細い腰から足へと流れるしなやかなラインは簡単に手折ってしまえそうなほど華奢で。

上質なシルクで包み込むように優しく抱きしめ、身悶えるほどの快楽に溺れさせたいと思う。
しかし、その反面で。
欲望のまま貪り、強すぎる快感に啼かせたい、とも思う。
沸々と込み上げてくる嗜虐的な熱の塊に、ぞくりと粟立つ。

「…ふっ、大概だな」
「ぇ?」
「いや…俺は、とことんどうしようもない人間のようだ」

その美しい滑らかな肌に牙を突き立て、穢れのない身体を醜い欲望で汚し、聖域の生き物を墜としてゆく悦び。
天使の純白の翼を黒く染めてゆく悦びが、理性を煽る。
荒々しく掻き抱き、泣いて許しを請う唇を塞ぎ、一方的に彼の熱を奪おうとする獣がままならぬ不自由さに低く呻く。

本能に身を任せてしまえば、楽になるだろう。
だが、それだけはできない。
彼だけは、傷付けてはいけないのだから。

整った眉を寄せ、眉間に薄い皺を刻む。
そうして、もどかしさにのた打ち回り、荒れ狂う獣を必死に抑え込む。

「はい、ん…」

奥歯を噛み締める音が聞こえてきそうだ、とアルフレードは引ききらない羞恥と放出の余韻を振り払い、ハインリヒに手を伸ばした。

「ハインは、優しいよ。いつも、いつだって、本当に優しい」
「アル…」
「今だって、苦しいのにオレのために我慢して、大切にしてくれている」

求めるだけの愛情ではなく。
独り善がりな愛情でもなく。
奪うだけでも、与えるだけでもない。
他人には理解されない愛し方なのかもしれない。

だが、いっそ窒息しそうなほどに深く、強く、一心に。
ただひたすらに真っ直ぐ、真摯に、惜しみなく想いを捧げてくるその愛し方。
彼のその愛し方が、心地良い。

「優しいだけでも温かいだけでもないから、ハインはハインで…オレは、そんなハインが好き」
「…お前には想像もできないような酷いことを考えていたとしてもか?」
「それも全部含めて、オレはあなたを想うよ」

あなたの覚悟や優しさが生半可なものでないように。
オレの想いは、あなたを想うこの気持ちは生半可なものではない。

そう言い切ったアルフレードの唇に、ハインリヒは噛み付くように己のそれを重ねた。
彼の呼吸を食むように舌を捕え、咥内を犯す。

「…っは、ふ、はぁ…ん、んん…っ、ふ、」

飲み下すことができなかった2人分の唾液が、苦しげな中に艶を含んだ嬌声を零すアルフレードの口端から零れる。
放ったはずの熱が再び下肢に集まり、すかさず伸びてきたハインリヒの手がそれを包み込んだ。
解放へ導くのではなく、溢れるそれを塞き止めるかのように。

「は、ふぅ…ん、ぁ…はい、ん…は、ぃ…」
「続けては身体に負担がかかる。少し、堪えてくれ」
「ん…」

頑張る、と小さく続けたアルフレードのいじらしさに、様々な感情が溢れる。
慈しみたい、愛おしみたい、大切にしたい。
温かなそれが。
かつての自分にはなかった、愛情という名前の感情が、胸を満たす。

アルフレードの蜜を指に絡め取り、秘所に宛がう。
本来は人目に触れることのないそこへ異物が侵入しようとしている気配に、アルフレードの身体は反射的に逃げる。
何度身体を繋げたとしても、本能的な恐怖をそう簡単に振り払えるはずがない。
それでなくとも、彼はこの行為に酷く傷付けられたのだから。

だが、じっと見つめてくる鳶色の双眸は自分に語りかけてくる。
いいよ、と。

(“温かくても冷たくてもいい”、そう言われたのは、初めてこの身体に触れたときだったな)

どんなに怖がって怯えても、いい。
どんなに泣き喚いても、いい。
その手だけは、あなただけは、触れてもいい。
痛くても苦しくても、傷付いたとしても、大丈夫だから。
他の誰かが、あなた自身が、それを許さなくても。
オレだけは、許すから。

触れてもいい。
触れてほしい、と。
海容の瞳に宿った力強い光に抱擁されながら、その言葉を聞いたときの歓喜は今も鮮明だ。

「アル、お前は本当にいつくしいな」

生理的な嫌悪と本能的な恐怖を凌駕する許容。
繋いだ手をしっかりと握り、侵入者を警戒している秘所に宛がった指先を埋めた。

警戒しつつも存外に容易に受け入れたそこの奥へと人差し指を進める。
押し返すためか、それとも、更に深く受け入れるためか。
ヒクリと収縮したそこに中指を加え、アルフレードの苦しげな吐息が甘い嬌声に飲み込まれるまで、ゆっくりと時間をかけて解していく。

これほどまでに慎重に。
徹底的にとも言えるほどに焦らす必要はないのかもしれない。
だが、本来は受け入れるべき器官ではないそこに無理を強いることに変わりはなく。
アルフレードがあまりのじれったさに身悶え、涙を流しながら懇願するまで、愛撫を施す。

「アル…」
「ぁ、んっ…ぅ、んん…は…っ、も…いい、よ」
「…俺を見ていろよ」
「ん」

ずるりと2本の指を引き抜く。
アルフレードが呼吸を整えるために大きく息を吐き出したのを見計らい、己の昂ぶりを十分に解したそこに宛がう。
指とは全く比べものにならない質量と熱に、ぴくりと彼の薄い肩が跳ねる。

「アルフレード」
「ふ、ぅ…ん、へーき…」

へにゃっと力なく微笑む様がまた愛らしく、心臓が痛む。
甘く、ひどく心地の良い痛みだ。
その痛みを噛み締めるように、昂ぶりをゆっくりと埋めていく。

一思いに貫いてしまった方が、彼も自分も楽だ。
しかし、そうはしない。
彼の心から乖離してしまっている彼の傷付いた心の一部が、受け入れるまで。
彼を犯す熱が、“誰”のものなのか。
今目の前にいるのが、“誰”なのか。
受け止める時間を与えるように、緩々と押し入る。

正直に言えば、辛い。
自分を受け入れるアルフレードの身体に負担を強いているのは紛れもなく自分自身だが、雁字搦めの熱がもどかしさと歯痒さにのた打ち回り、呼吸すらままならないのだ。
額から流れた汗が、顎を伝って落ちる。

「…っ、は…、」

それは熱い吐息と共にアルフレードの胸に落ち、弾けた。

深く繋がるための、痛み。
共有するのは快感だけではなく。
その痛みと、そして、幸福感。
これは、ただ身体を繋ぐための行為ではなく。
とてつもなく尊い時間を噛み締めるための行為だ、と思うようになったのはいつからだったか。

だが、アルフレードに過去を追う余裕などすでになく。
常は深く沈んでいるサファイアが熱に溶け出し、夜明けを迎えた海のように黒でも青でも夜でも朝でもない神秘的な色となったハインリヒの瞳を見つめ返す。

俺を見ろ、と言うから、目は逸らさない。
俺を呼べ、と言うから、名前を呼ぶ。
“過去”と“今”と“狂気”と“愛情”の境界線を見失わないように、見誤らないように。

「はい、ん…っ、は、はやく…いっしょ、に…っ、ぁ…」
「動いても大丈夫か?」
「だい、じょ、ぶ…だか、ら…っ、ふ、は…ッ」

繋いでいない方の手で、バランスよく鍛えられたハインリヒの逞しい身体に触れ、広い背中にそれを回す。
引き寄せるように軽く力を入れれば、体内に受け入れた熱の質量がぐっと増した。
内壁を溶かし、襞を押し広げ、胃を圧迫される。
苦しくないはずがないが、“苦痛”ではない。

「アル、アルフレード」

灼熱が、身体の中でじわじわと溶けていく。
鼓動が、彼のものと重なって調和する。
呼吸が、元はひとつのものであったかのように交わる。

緩く、そして徐々に強くなっていく律動が与える快感は、いまだその行為に慣れないアルフレードには過ぎたもので。
無意識の内に、彼の背中に回した手が縋るように彷徨い、爪を立ててしまう。
それがハインリヒの熱を更に煽ることになっているのだと知る由もなく。

「俺の最愛」

その愛しい肢体を貪り喰らい尽くしてしまいそうなほどに空腹を訴える獣を宥めながら。
ハインリヒは背中に走ったチリチリとした痛みに構うことなく、彼の最奥へと侵入した。

込み上げてくるのは、実に背徳的な優越感。
愛する者を喰らい、喰らわれるという非人道的でいて、真理に等しい快楽感。
もしも己の血肉で彼が救われるとしたら、何の躊躇もなくこの身を差し出すだろう。

「アルフレード、」
「ぁ、ふ…はい、ん…はいんっ」

そして、アルフレードもまた。
過ぎる快楽に抵抗しながら、優越を噛みしめていた。

額から汗を流し、整った眉を苦しげに寄せ、何かに堪える必死な余裕のない表情。
擽ったく、穏やかで優しげで、蕩けそうなほどに甘い睦言を紡ぎ出す声音。
賢く冷静で、冷酷で非情な獣の一途で真摯で、轟々と燃えるような情熱的な一面。
自分だけが見ることを許された、愛する人の無防備な姿。
それは、極上の特権。
独占欲を満たす、至幸だ。

自分でも触れることのできない最も深い場所に感じるハインリヒの存在に、「もっと強く、もっと深く」とでも言うかのように襞が浅ましく絡みつく。

「ッ、アル…力を、抜けるか?」
「んぅ、ん、は…っ、」
「いい子だ」
「…ぁ…ん、ぅ…」

腰を屈めて汗の滲んだアルフレードの額に唇を落とせば、体勢が変わったことでより深く入り込んだようで。
更に奥へと誘うかのように蠕動する彼の内壁に、ハインリヒは辛うじて繋ぎ止めていた理性が焼き切れていく音を聞いた。

「Ti amo,Alfredo」

向けられた春の日向のようなアルフレードの微笑みに、貪欲な獣が牙を剥き出しにする。
だが、同時に。
荒々しい気性を露わにしていた空腹の獣が、凪いでいくのを感じた。
貪るのではなく、どこまでも優しく。
そして、蕩けるほどの愛撫を与え、一方的な快楽ではなく、それを共有したい、と思う。

あれほど深かった怒りを。
痛みを感じるほどの哀しみを、すっぽりと抱擁してしまったアルフレードの温かな海容の腕の中。
かの詩人が綴った、“愛情のキス”などという容易な言葉では表現し切れないほどの深甚なる想いを込めて。
震える唇を、重ねた。


Prossimo


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