Lichtseite

太陽がそこにあることを忘れてしまいそうになるほど、鈍色の分厚い雲が空を覆う日が続いていた。
長い歴史を見守ってきた美しい街も、ジトジトとした淀んだ空気に包まれている。
今もまた、静かに降る雨が大地を濡らす。

「雨、止まないね」
「そうだな」
「止まないかな」
「直に止むさ」

ズキズキと痛むのは、脈打つ米神か。
今も癒え切らない深い傷のある、胸か。
それとも、別の場所か。
どこが痛いのか分からなくなってしまい、気付けば、思うように動けなくなっていた。

そんなオレを彼は自分の膝の上に乗せて、落ちないようにその逞しい腕をしっかりと背中に回してくれている。
くったりと身体を預けても、彼は何てことのないような顔をしているから、安心してしまう。
この人は、いつだってオレを受け止めてくれる、と。

「少し熱があるな。苦しいところはないか?」
「うん、へーき」
「そうか」

ぽんぽんと背中を撫でられ、その労わるような優しい手つきに目を閉じた。
肩口に顔を埋めれば、オレの背中にあった彼の大きな手が頭を撫でる。
そのあまりにも労わりに満ちた優しい手つきに、鼻の奥がツンと痛む。
けれど、それは妙に心地良いもので。
どこが痛いのか分からない鈍い痛みが、その優しい痛みに包み込まれていく気がする。

「アル」
「うん?」
「明日、晴れたら庭園に行こうか」
「庭園?」
「雨上がりは空気も澄んでいる。芝生は濡れているだろうから寝転がるのは無理だが、ゆっくり歩くのも悪くない」
「散歩?」
「デートだ」

手を繋いでな、と悪戯っぽく言って小さく笑う彼に、オレも思わず笑う。

「アル」
「うん?」
「雨、早く止むといいな」
「うん」

鼓動が重なり合うほどぴったりと抱きしめ合って。
あぁ、温かいな、と思う。

街はまだジトジトと淀んだ空気の中にあって、シトシトと静かに降る雨に濡れていることだろう。
ほんの少し痛みが和らいだ気もしたけれど、消えたわけではなくて。
きっと、それはこの先も簡単には消えてくれない。

けれど。
触れ合った部分から伝わる彼の温もりが、とても温かくて。
オレの髪を梳く彼の指の感触が、とても優しくて。
晴れた庭園を想像しながら、ランチはどこで食べようかと話す彼の声が、とても愛おしくて。

「ハイン…」

ここにはオレを傷付けるものなどないのだ、という安心感。
ここでなら痛みに蹲ったとしても再び歩き出せる、という安堵感。
それが、オレを抱擁する。

「ハイン、」

あぁ、そうだ。
消毒液の匂いがする真っ白な部屋がただただ怖かったあの頃、それでもオレは知っていた。
夜になれば、何もかもを受け入れてくれる闇が訪れることを。
そうして、彼が何度も教えてくれた。
光の、顕在を。

「オレだけの、神さま」

助けて、と叫べば、手を差し伸べてくれる。
そんな人を、他に何と呼べばいいのだろう。

「明日、庭園行きたい」
「そうだな」
「晴れるといいね」
「あぁ、アルがそう望むのなら、晴らしてやる」
「ふふ、ハインが言うと本当にできそうだね」

天気を操る神さまに不遜な態度で直談判している姿が容易に想像できてしまって、思わず笑ってしまう。
任せておけ、と言う彼の肩口に顔を埋める。

「少し眠れ」
「……」
「怖い夢など見ないから、大丈夫だ」

あぁ、どうして彼がそう言うと本当に大丈夫だと思えるのだろう。
理屈や根拠などなくても、確信できる。
彼が傍にいてくれるのなら大丈夫だ、と。

「おやすみ、アルフレード」

おやすみなさい、と返そうと唇を開いたけれど、自分の声が耳に届くことはなく。
けれど、彼がオレの名前を紡ぐ優しい声は聞こえていた。
それは、澄み渡る青空から降り注ぐ陽光の存在を確信するには十分なものだった。

  光の当たる側にあったのは太陽ではなく…


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***
アルは、包み込む優しさ。相手の痛みや傷をすっぽり抱きしめる人。
ダイトは、寄り添う優しさ。相手の哀しみに共感して一緒に泣いてくれる人。
ハインの優しさは、無言の優しさ。慰めや励ましの言葉が要らないときを見誤らない人。

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