Nebenbuhler

ひし、と。
まるで、幼子が母親に縋りつくようにして背後から抱きつかれる。
簡単に手折ってしまえそうな細い腕が腹に回され、白い指がシャツを掴む。

「…アル、」

応えはないが、シャツを掴む彼の手に力が入った。
自分の掌を彼のそれに重ねれば、じんわりと温もりが溶け合う。

伝わる体温、項にかかる微かな呼吸、白くて細い腕。
蜂蜜を垂らしたかのように甘く煌めく金糸の髪に、おそらく伏せているだろうその美しいの瞳。
その全てが、愛しくて堪らない。
あぁ、自分は本当に骨の髄まで爪の先までこの青年を愛しているのだ、と思い知る。

「アル、アルフレード」
「……」
「後ろからもいいが、お前の顏が見られないのは寂しいぞ」
「……」
「顏を見せてはくれないのか?」

重ねた手を撫でれば、背中にあった温もりがそろりと離れ、無言のまま向き合う体勢になる。
そして、ラグの上に腰を下ろしていた俺の膝の上に乗り上げてきた彼は改めてと言わんばかりに抱きついてきた。
俺もまた、彼の華奢な背中に腕を回す。
互いに互いを抱きしめ、抱きしめられているこの体勢は、不安定なこの世界の中での数少ない確かなものだ。
心の底からの相惚れを体現しているようだ、と口許が緩む。

そうしてしばらくの時間を心地の良い沈黙に浸って過ごしていると、腕の中の彼が徐に身じろぐ。
何をしているのかと見守っていると、彼は俺の左胸、ちょうど心臓の上に耳をぴたりと付けた。

「アル?」

クラシックか聖歌を聴いているかのように穏やかな顔で瞳を閉じていた彼は、やがてゆっくりと瞼を上げる。
そして、琥珀よりは深い鳶色の美しい瞳を惜しげもなく見せ、世界中の幸福を全て享受しているかのように微笑んだ。

「はいん、はいん」
「どうした?」
「すごいよ。オレとハインの鼓動、同じ速さなの。2人分の心臓が、寸分も違わないリズムで動いている」

何がそれほどに嬉しいのか、彼の声音はひどく甘い。
その声音のまま、彼は再度俺を呼ぶ。

「イキモノの寿命って、鼓動の回数で決まっているんだって」
「そうなのか」
「うん。だからね、」

唄うように言葉を紡ぐ彼の心地良い声が耳朶を擽る。
あぁ、彼が何を言わんとしているのか分かった。
やはり、言葉だけではない何かが自分たちの間には仲介者として存在しているのだと思わざるを得ない。
鳶色の瞳を輝かせ、嬉しそうに、そして幸せそうに微笑みを深くした。

「オレたち、きっと同じ日の全く同じ時間に心臓が止まるよ」
「……」
「オレの息が止まったら、ハインの息も止まるんだ。ハインの息が止まったら、オレの息も止まるんだ」

あぁ、きっと。
きっと、そうだろう。
そうであればいい。

「置いて逝かなければいけないことも、置いて逝かれることもないんだよ。一緒に生きて、一緒に逝けるんだ」

重なる鼓動に身を委ね、強く抱きしめ合う。
孤独の哀しさも寂しさも恐ろしさも抱えて生きてきたこの愛しい青年の切ないまでの願いを感じ、胸が詰まる。

「あぁ、一緒に逝こう」

互いの鼓動を全身で感じながら、唇を重ねる。
いっそ、このまま共に心臓が止まってしまえばいい、と願いながら。

  いずれ来る永訣のとき、この恋の敵はきっと微笑むだろう


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アンニュイでポエミーな万年新婚になっちまっただよ。

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