Chinin

古代ギリシアの医学者たちは、発熱を有益な兆候とみていたらしい。
その後、2千年間も彼らの考え方は受け継がれ、17世紀のイギリスのとある医師は、「熱は自然が与えてくれた外敵に勝つためのエンジン」と言った。
事実、トカゲも細菌に感染すると気温の高い方に移動する。
身体の中に入り込んだ敵と戦い、防衛する機能が“発熱”なのだ。

「…また上がったか」

じっとりと額に浮かんだ汗を拭い、指先に触れた体温に眉を寄せる。
苦しげな熱い吐息とその苦痛に堪えるように食い締められた唇。
そして、固く閉じられている眦の端から零れ落ちる涙に、胸が痛む。

「アル、」

19世紀に誕生した、解熱剤。
100年足らずの歴史しか持たないその薬は、苦痛から僅かばかりの解放をもたらす。
長い苦しみにもがく者にとっては、救いとなるだろう。
しかし、己の手の中にあるその錠剤を彼に与えることは本当に正しい行為なのだろうか、と思う。

「お前は今、戦っているのだろう?」

たったひとりで。
とてつもない敵を前に、それでも怯むことなく、傷付いた身体を引きずりながら。
想像することもできない痛みにひたすら耐え、戦っている。

この青年は、手に入れることの容易い安息から目を背け、過酷な現実と向き合うことを自ら選んだのだ。
諦めることなど容易いというのに。
彼は今も懸命に抗い、もがき苦しみながらも、諦めはしない。
痛みに涙を流しながらも、生きることを諦めはしない。
握った彼の熱い手から、その確かな意思が伝わってくる。

あぁ、そうだ。
発熱は、自身を防衛する機能であると同時に、身体の中に入り込んだ敵と戦う意思そのものなのだから。

「ならば、俺も共に戦おう」

一時の偽りの安息など要らない。
苦痛を伴う長い戦いの勝利だけを信じて、白い錠剤を放り棄てた。

  麻薬の齎す虚構の楽園と解熱剤の齎す偽りの解放は似ているものだから


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***
アルが諦めることを誰よりも恐れている反面で、アルは諦めないと信じている。
アルの熱をどうすることもできないもどかしさと歯痒さを感じながらも、アルの体温に彼が生きていることを確信して安心している。
ハインはそんな感じの人。

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