Mikrokosmos

世界は広い。
そんな単純で当たり前のことを、知らずにいた。

「時差は、6時間…」

距離にすれば、1425.647km。
言葉も文化も民族も何もかもが、生まれ育った国とは違う異国。
それでも、不自由を感じたことなど一度もなかった。

言葉が通じないのなら、言葉を学べばいいだけのこと。
文化が違うのなら、文化を知ればいいだけのこと。
民族の違いなど、同じ人間であることに変わりはないのだから些細なことで。
目には見えない国境など、時の権力者たちが思うがまま好き勝手作り上げた無意味なものでしかなかった。

世界とは、ひどく狭いものだったのだ。
たった数ヶ月前までは。

「…さすがに、もう寝ているだろうか」

開いた携帯電話に表示されたディスプレイを見つめたまま、コールボタンの上に置いた指を離す。
狭い世界の中を自由に飛び回る電波は、国境も時差も軽々と飛び越えていく。
今までは、そう思っていた。
いや、ボタンを押せば、電波は簡単に海を越えていく。
それでも押せないのは、海を越えた向こう側は深夜だと気付いてしまったから。
同じ地球上に居ながら、違う時間の上に生きていることに、気付いてしまったから。

「もどかしいな…」

ホテルの最上階から見下ろしたNYの街。
目まぐるしく変化する数字と人の流れに逆らうことなどできるはずもなく、交わることのない時間軸は平行線のまま。

たとえば。
この時間軸に生きる者が、別の時間軸に生きる者と出逢う確率はどれほどだろうか。
決して交わることのない平行線に生きる者たちが交わる確率は。
この広い世界のどこかで、同じ時間に同じ場所に立ち、同じ想いを抱く確率は。

(“奇蹟”、か…)

異なる文化と異なる故郷を持つ者が同じ時間に同じ場所に居たことは、偶然でしかない。
だが、広大な海に阻まれ、交わることのない大陸が浮かぶこの惑星で。
数え切れないほどの文化と民族が共存するこの世界で。
異なる文化と異なる故郷を持つ者が同じ時間に同じ場所に立ち、同じ想いを抱き、同じ願いを胸に同じ方向を見つめることは。
奇蹟、そのものだ。

『Pront,Heinrich』

声が聴きたい、と思ったその瞬間。
海の向こうでコールボタンが押されたこともまた。

「どうした、そっちは夜中だろう?」
『うん。でも、なんだか無性にね、』

声が聴きたくなった、と告げられる。
そうして、惜しみなく与えられる奇蹟に。
ただただ、感謝することしかできなかった。

  あなたと廻り合わせてくれた大宇宙に花束を、ぼくを愛してくれた小宇宙に感謝を


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***
世界中を自由に飛び回っていたハインにとって“世界”はとても狭いものだった。
でも、アルと出逢ったことで、その出逢いが実はとても尊いものだと気付いて。
自分の周りにいる人たちの存在の大切さを知る。

ハインにとってアルの存在はそれくらい影響力のあるものだと思う。

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