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それは、ある日常の「物語」 #12

眠ったときと同じように、隣に温もりを感じて目を覚ます。
カーテン越しに感じる産まれたての朝陽が放つ光は柔らかく、今日も快晴だろう。
穢れのない青空の下、彼が洗い立てのシーツを楽しそうに干す姿が容易に想像でき、思わず小さく笑む。

(プランターのトマトとパセリがそろそろ収穫時だと言っていたな)

今日のランチは、彼が得意とするトマトのパスタだろう。
採れたての鮮やかな緑色のイタリアンパセリは、彩りに添えられるに違いない。
昨日、部下が彼への土産として持ってきたベルギー産のチョコレートは、午後のティータイムを一層甘くしてくれるだろう。
ディナーは…。
久しぶりに正装をして、彼が好きなレストランに行こうか。

「アル、」

彼の笑みと温もりに満たされ、1日を終える。
そうして、彼の温もりを感じながら、1日を始める。
彼は今日も、その愛らしい笑みを惜しげもなく存分に見せてくれることだろう。

眼を閉じれば、想像するまでもなく、ごくごく当たり前の日常となった穏やかな時間が瞼の裏に描かれる。
かつての自分が今の自分を見たならば、驚きに言葉を失くすだろう。
誰かと過ごす時間を、これほどに愛おしく感じている自分の姿など。

「アル」

良い夢を見ているのか。
口許に笑みを乗せ、擦り寄ってくる彼の肩をそっと抱き寄せる。
服越しに伝わる彼の鼓動が、俺のものと重なった。

たったそれだけのこと。
たったそれだけのことで、全身の細胞が満たされてゆく。

「アルフレード…」

囁くように呼べば、条件反射のように一層身体を寄せてくる。
あぁ、魂が真に希求していたものは酸素でも水でもなく。

「Alfredo」

込み上げてくる愛しさに胸を押し潰されそうになりながら、今日も自覚する。
この時間が。
彼と共有するこの一瞬一瞬が。
彼が愛しい、と。

  数多ある奇跡の中で、君と出逢えたことが一番の奇跡なのです

__________


それは、俺があいつの存在を知ったばかりの頃の出来事。

「Ma va!?」(マジか!?)

ばさばさっと音を立て、持っていたカルテの束が床に散らばる。
背後から看護士の自分を咎める声が聞こえた気がしたが、それに構っていられる余裕はない。

「…おいおい、これは夢じゃねぇよな…?」

開け放たれたままになっているドアの向こう側。
そこは、診察のために使うベッドが1つだけ置かれている部屋。
今は、患者である青年が点滴が終わるのをそのベッドの上で待っていたはずで。
そろそろその点滴が終わる頃だろう、と運んできた足が、ドアの前で止まる。
目の前の光景に、俺は「これは現実か?」と疑ってしまった。

「……」

自由に使える時間など限られているだろうに。
それでも。
無理をしてまで時間を作り出しては、家族でも血縁者でもない青年の傍にいようとする男。
青年の点滴が終わるまでは、と今日も当然の如く居座ったその男は、部屋に1つしかないベッドの端に腰を下ろしていた。
その手で、青年の蜂蜜色の髪を撫でながら。

いや、驚いたのはそこではない。
ひどく優しい表情をしていたあいつに、そんな顔もできたのか、と驚かなかったと言えば嘘になるが。
カルテの束を落としてしまうほどに、驚いたのは。

「…主治医でも父親代わりでも、駄目だったのにな…」

人間という生き物に怯えている、あの青年が。
いまだ癒えない深い傷の痛みに耐える術しか持たない、アルフレードが。
自分を傷付けた凶器でしかなかったはずの“男”の手を受け入れ、尚且つ、空いているもう片方の手を握っていたのだ。
拒み続けていたはずの、他人の手を。

「…今夜は、祝い酒だな」

それは、俺があの不遜な男の存在を知ったばかりの頃の出来事。
そして、同時に。
俺があいつにあの愛しい青年の全てを託し、彼らの道行きを祈ろうと思った瞬間の出来事だった。

  どうか、どうか、と祈ることしかできないが、それでもどうか…

__________


ねぇ、本当にいいの?
本当に、オレでいいの?

「いいの?」

その手を、掴んでしまっても。
その温もりを、求めてしまっても。
あなたの傍に在ることを、望んでしまっても。
赦してくれますか?

「俺は、アルでなければいけない」

あぁ、神さま。
オレは今日、信じられなかったあなたを捨てます。
声が枯れるまで泣き叫んで呼んだとしても、決して誰も救わない平等なあなたとは今日でお別れです。

「オレも…、」

誰にでも優しいわけではない不平等な神さま。
オレだけの、唯一の存在。
そんな人と出逢えたから。

「オレも、ハインじゃないといけない」

  70億分の1の存在


#13


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