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アラルドの跪く日

何人も拒むことなく。
かと言って、その腕で抱擁することもなく。
訪れる者を、ただただ静かに迎え入れる。
去る者を、ただただ静かに見送る。
優しいようで、いっそ残酷な場所だ、とハインリヒは内心で嘲笑にも似た苦笑を落とした。

「……」

カツン、と上等な革靴の踵が大理石の床を蹴る。
凪いだ水面のように穏やかだった静寂の中に響く無遠慮なその音に気を留めることなく。
等間隔に並ぶベンチとベンチの間。
身廊と呼ばれる一筋の道を、一歩、また一歩と揺らぐ水面に波紋を描くようにゆっくりと歩いていく。

(…不気味だな)

側廊に掲げられた蝋燭の淡い灯りは彫像に仄かな温もりを与え、妙な生々しさを感じさせる。
凛とした冷たい空気はひどく静謐なもので。
教会という一種の独特な空間に、人々は現実とは隔てられた領域をそこに見るのだろう。
そして、多くの人はその隔離された空間を“神聖”だと表現する。

人が踏み入ってはいけない、神域。
神の棲まう家。
そこを訪れた敬虔な信者は悦んで跪き、神に仕える者たちは生涯と共に祈りを捧げるのだ。

しかし、彼の限りなく闇色に近いブラックサファイア色の瞳には、まるでこの世の終焉を迎えた後に遺された廃虚に似た不気味さと冷たさだけが映っていた。

(世界中に無数に家を持っている神とやらは、一体今日はどこに居るのか)

常に主が不在の家の存在理由とは、一体何なのか。
信仰を持つ者にとって、ただの拠り所なのか。
縋るべきものがない者にとって、唯一縋れる場所なのか。
それとも、存在しているだけで誰かを救えるのか。

壮麗なバラ窓から差し込む月光と蝋燭の灯りに包まれている主祭壇。
その中心に掲げられた十字架に磔にされている憐れな救世主の彫像を見上げ、ハインリヒは口端にそれと分かるにはあまりにも薄い嘲笑を乗せた。

(どこに居るかも分からない偶像に、何ができる)

何百年もの間、時代と共に移り変わる信者たちを受け止めてきたベンチに腰を下ろす。
掌に触れた古い木の感触に何を想うでもなく、長い足を持て余すように組む。

不遜なその姿を信者が見たならば、額を押さえて嘆くことだろう。
だが、幸いにも街すらも寝静まっている深い時間に人の気配はなく。
夜だけが、無言で寄り添う。

(昔から、この空間に嫌悪感があったな)

幼い頃、両親に連れられて教会を訪れるときは決まって、粛々と進められていくミサの半分も見届けずに抜け出していたのを思い出す。
物心つく前から信仰心というものがなかったのだろう。
いや、ただ信仰を持たなかったのではない。
憎悪に近いものを、確かに感じていた。

信仰を持つ者を否定するのではない。
ただ、何十億人から崇められておきながら、本当に救いを求める者に手を差し伸べることもなければ、どれほど祈ったとしても何も変えられないその存在が信じられなかっただけだ。
偽りの優しさの仮面を被った偶像の、ある意味では真の優しさとも言える平等さに嫌悪を感じていた。
今も、それは変わらない。
むしろ、強くなったとさえ言ってもいいだろう。

「お前に、何ができる?」

凍てつく夜の海を思わせる静かな双眸が、救世主を射抜く。
しかし、それが言葉を返すことなどあるはずもなく。
ハインリヒは、丁寧に整えられていた前髪を片手でくしゃりと乱した。

その拍子に額に落ちかかった黒髪が、彼の精悍な顔立ちを強調する。
荒削りのものではなく、端整に磨かれた野生的な美しさだ。
そして、そこに共存するのは、迂闊に近付くことを躊躇させる獰猛な気配。
冷酷な鋭い牙を持つ、生まれながらにして獣たちの王である賢い獅子の気配。
信心深い聖職者でさえも彼の不遜な物言いを咎めることができなくなるほどの圧倒的な存在が、そこにあった。

(…何を求めてここに…いや、彼は何も求めていないのだろう)

幾人もの迷い人を見てきた老いた瞳を細め、司教は足を止めた。

ふと眼が覚めてしまい、再び寝付くこともできず。
嵐でもないというのに何故か胸がざわつき、ならば朝まで祈りをと聖堂に足を向けたことに理由などないはずだったが。
そこには、意味があったのだと確信する。

深い夜に飲み込まれることなく、むしろ、闇を拒む漆黒を纏う男。
彼が救世主に向けているのは、神を敬う信仰のそれではなく。
縋るものでも、救いを求めるものでもなく。
この場所を訪れる多くの人とは分厚い壁で隔たれた向こう側に居る者のものだ。
出会うはずのない、男。
交わるはずのない、時間。
それが今、重なる。
あぁ、自分は彼と出会うために、何かに導かれたのだろうと思う。

(神によって、と言えば、恐らく彼は否定するでしょうが)

何かを語りかけているのか。
ただ見ているだけなのか。
それとも、自分には聞くことのできない会話が交わされているのか。

じっと十字架を見つめている男をしばし見つめた司教は、徐に一歩踏み出した。
控えめな足音が、凪いだ静寂にゆっくりと波紋を描く。
それは男に当たり、形を歪めた波紋が更なる波紋を生み、何かに護られるかのようにそこで止まっていた時間が動き出す。

「こんばんは」
「……」
「こんな夜更けに祈りとは熱心ですね」
「…祈っているように見えるのか」

耳朶に触れた男の声音は落ち着いたもので、彼が纏う圧倒的な存在感に相応しいそれに司教はそっと口端を緩める。
足を組んで腰を下ろしたまま視線だけを向けてきた男を咎めるでもなく、司教は彼の座るベンチと身廊を挟んだ反対側のベンチに腰を下ろした。

「随分と熱心に見ておられましたね」
「…見ていただけだ」
「そうですか」

ふい、っと視線を再び十字架に戻した男に倣い、彼もまたそちらに眼差しを向ける。

「神を、見ておられたのですか」
「…それを模した彫像を見ていただけだ」

無愛想な対応に怯むでもなく、嫌悪を示すでもなく。
どこか楽しげに笑む気配を身廊の向こう側に感じ、ハインリヒは突然の介入者に意識を向けた。

いつの間に近付いてきたのか。
長い年月をかけて作り上げてきたポーカーフェイスの下に、常であれば敏感に気付くはずの他者の気配に全く気付かなかった自分自身への驚きを隠す。

些細な油断が死を招く世界で生きてきた。
己のテリトリーに無遠慮に踏み入ろうとする者も居なければ、踏み入った者も居ない。
だと言うのに、何の戸惑いもなく傍に腰を下ろした壮年の聖職者を視界の端に入れながら、ハインリヒは妙な既視感を覚えた。

(似ている…)

いつの頃からではなく、出逢ったその瞬間にはすでに何年も前からそうあることが当然であったような自然さで己の中に存在していた最愛の人が纏う空気に。
そして、彼を愛する多くの者たちが持つ何かに。

たとえば。
彼の強さを誰よりも信じ、誰よりも彼の幸いを祈り続けている医師の眼差しに宿った温もり。
彼をただただ慈しみ、その背中を支え、ときには旅路へと誘ったかの聖職者の掌の優しさ。
命を賭けて彼をこの世界に与えた彼の両親が、愛情と共に彼に注いできたもの。
司教が纏う空気は、そういったものに限りなく似ていると思う。

「不思議な夜ですね」
「……?」
「神を信じる私と神を信じないあなたがこうして肩を並べている」
「…あぁ」
「おやおや、神を信じていないということは否定されないのですね」

悪戯を成功させた子どものように無邪気にくすくすと小さく笑う司教に否定するでも肯定するでもなく、ハインリヒは視線をそちらに向けた。

「…それは、どこで手に入る?」

不意に向けられたブラックサファイアの双眸に射抜かれ、司教は一瞬その力強い眼差しに魅入った。
バラ窓を彩るステンドグラスの色。
聖者が纏う衣のその色に、息を飲む。
美しさに畏怖を感じ、思わずその場に傅きたいという衝動に突き動かされる。

だが、男の強い眼差しは情動の余韻に浸ることを許さない。
呼吸をひとつ飲み込み、彼の視線の先を追う。

「これ、ですか?」
「あぁ」
「ロザリオをお求めですか?」
「あぁ」

胸元で揺れる十字架を指差せば、肯定が返ってくる。

「神を信じないあなたが、ロザリオを?」

“天使祝詞”を現している小粒の珠が10個並び、“主の祈り”を現している大粒の珠が1個。
そして、小粒の珠が10個、と規則的に並んでいるそれは本来、聖母マリアへの祈りの回数を確認するための道具である。
神を信じない者には、到底必要のないものだろう。
だが、再度首肯で返される。

「何故?」
「祈りをバラの花に譬え、それを重ねることによってバラの冠を織り上げるイメージで心を込めて言葉を紡いでいく」
「……」
「それが、“祈り”だと教えてくれた存在が居る」

世界の意味も、自分の存在意義も持たなかった自分に。
世界とは存外に色鮮やかなもので、光に溢れ、闇がときに優しいことを教えてくれた。
祈りの言葉など持たなかった自分に。
誰かのために願い、誰かの幸いを祈ることの幸福感を教えてくれた。
言い訳を並べて臆病になっていた自分に。 
自分自身のために戦う勇敢さと本当に大切なものを選び取る強さを教えてくれた。
強くあろうとすることで靭くなれるのだ、と教えてくれた。

穢れなど知らないかのような純粋な瞳は、その実、残酷な現実を見つめてきた。
それでも、なお美しい青年。
容姿だけではなく、その心根が真に美しい存在。
人間によって理不尽に傷付けられ、手に入れていくはずだったものを奪われ、それでも。
そんな現実から目を逸らすことなく、真摯に生きてきた美しい人。
何を犠牲にしたとしても護りたいと渇望し、たとえ敵わない強大な敵を前にしたとしても共に戦いたいと切望し、魂が希求した美しい最愛の天使。

そんな人が居る、と続けたハインリヒの冷静に紡ぎ出される言葉はひどく情熱的なもので。
司教は、彼の双眸に満ちている深い海の底に沈む光を確かに感じた。

「俺には神は居ないが、天使なら居る」
「天使、ですか」
「醜い人間によって羽をもがれ、それでも人間のために祈り続ける優しい天使だ」

天の高き場所から見下ろすことしかできない無慈悲な神に諦め、慟哭すら忘れてしまった哀しく憐れな片翼の天使。
「誰か」と血を吐くように叫び続け、深い傷口は今もなお疼痛を訴えている。
呼吸を奪われるほどのその痛みに蹲りながら、それでも。
それでも、彼は誰かの幸せを祈る。
そのいつくしい姿に、胸が痛むほどの愛しさに襲われたことは一度や二度ではない。

「神ではなく、俺のために祈っているのだと言っていた。共に過ごせることに、愛し愛される幸いに、感謝を捧げているのだと」

心から祈ることを知っている青年が捧げる祈りは、敬虔な信者が神に捧げるそれと似ているようで全く違う。
彼のそれは、宣誓なのだ。
その美しい瞳に炎を宿し、神に剣を突き付けて果敢に戦う者が声高に叫ぶ宣戦布告。

「ならば、俺も祈りたいと思った。俺の幸いを一身に祈る彼のために、祈りたい」
「…神ではなく、愛する人に?」
「あぁ」

堂々と言い切ったハインリヒに、司教は口端に刷いた笑みを深くした。
同性の交わりを罪だと禁じているバイブルを手にしている者に、彼は一切隠すことなく、最愛の者が同性であることを言い放ったのだ。
賢い獣が、無自覚なわけがない。
恐らく。
いや、彼は確信的に、神の代弁者である自分に“青年”を愛していると宣言したのだ。

(あぁ、彼は獰猛な獣ではなく…勇敢な戦士だ)

誰かのために。
自分のために。
戦うことを覚悟している者の瞳。

ふと、彼と同じ光を宿した瞳を持っていた男を思い出す。
彼もまた、この年若い戦士と同じように、愛する者のために祈っていた。
残された時間と命の全てを賭し、一切余すことなく生きようとしていた。

(出逢うべくして出逢った人のために祈る。それこそ、祈りの本質なのかもしれない)

バイブルと共に手にしていたロザリオをハインリヒに差し出す。

「これを」

さすがに予想していなかったのか、自分の行動に一瞬目を瞠ったハインリヒに笑みを向ける。
腰を上げ、手を伸ばそうとしない彼の元へ歩み寄った。

「昔、あなたのように愛する人のためにのみ祈っていた友人から預かったものです」
「……」
「ですから、このロザリオは神ではなく、大切な人に祈りを捧げるためのものです」
「…いや、しかし…」
「受け取ってください。ようやく、このロザリオは本来持つべき人の手に戻ることができます」

愛する人を喪ってしまった彼が、この教会を訪れた最後の日。
己もまた、最期が近いのだと言っていた。
死を前にしても穏やかで、むしろ、どこか安堵していたかのようにさえ見えた。
一片の悔いも未練もない人間など居ないが、それでも、彼はその瞬間を優しく抱きしめるように受け入れていた。

そうして、彼は言った。
いつか自分と同じように出逢うべくして出逢った誰かのために祈る者がこの教会を訪れたならば、どうか。
どうか、このロザリオを渡して欲しいと。

あれから幾ばくの月日が流れ、ようやく。
彼の願いが叶えられるときがきた。

「私がこうしてここに居ること。あなたがここに足を運んだこと。それは、紛れもない必然です」
「神の導きだと?」
「いいえ。天使の導きです」

このロザリオを持っていた人にも、あなたと同じように最愛の天使が居たのですよ。
そう続けた司教の笑みは、死神の鎌が振り下ろされようとしている間際でもなお穏やかであったかの人に。
アルフレードの育ての親であったレナートが最期に見せたものにひどく似ていた。
慈しみ育ててきたアルフレードの幸いを一心に願い、その道行が光あるものであれと祈りながら逝ったあの優しい人。
アルフレードの二世を奪うと告げた自分に、誇らしげに言祝いだあの人に感じた温もりを今、再び感じる。

「あなたは、その胸に覚悟の炎を宿す者の瞳をしている」

たとえば、天のいと高き場所に棲む神が立ちはだかろうとも。
怯むことなく、真に正しい道を選び取り、ひたむきに歩んで行ける力強さと覚悟。
神が過ちだと謗るその選択を、彼らは誇らしげに手にするのだろう。
生半可な覚悟と勇気では得られない幸福を、胸にしめて。

「あなたに、光の祝福あれ」

胸の前で十字を切り、司教は己の使命を果たしたかのような満足感が全身に充ちていくのを感じた。
秘蹟を手に入れた若者たちの道行を祈るときのそれとも、与えられた時間を終えて身許に還る者たちの来世を祈るときのそれとも比べものにならない。
神の代弁者として果たすべき役割を全うしたときのそれとは、性質が違う。
言うなれば、本能が充たされる満足感。
己が信じる神に全てを捧げたときに感じた、あの深い満足感だ。

誰かのために祈る。
その行為が、これほどまでに幸福だということを、今改めて噛み締める。

「願わくば、あなたの天使といつかお会いしたい」
「…きっと、この場所が気に入るだろう」
「門扉はいつも開かれています。再会のときは、私もまた祈りましょう。あなたと、あなたの天使のために」

アーメン、と再び十字を切る司教に倣うように、ハインリヒは彼から手渡されたロザリオをそっと掲げた。
自分の体温が移ったのか、冷たかったはずのそれに仄かな温もりを感じる。

(こんなもので何かが変わるわけではないが、それでも…お前の隣でお前のために祈りたいのだと言ったら、どんな顔をするだろうか)

きっと、極上の甘さを含んだ笑みを見せてくれることだろう。
愛してやまない、あの優しい微笑みを。

そして、ゆっくりと主祭壇を見上げる。

(嗤えばいい。お前が謗ろうとも、俺は望んでいたものを手に入れた)

誰にとっても平等に存在するだけの偶像ではなく、自分にとって唯一の存在。
一生を捧げて信仰の道にいる聖職者のように。
あるいは、天啓を受けたという男が。
国のために剣を握った少女が。
愛する者のために死地へ駆けた兵士のように。
命を賭けて、余すことなくその命を使い切れるほどの覚悟を持って生きられるような、そんな存在を探していた。
何度も諦め、現実に落胆することにも疲れ、それでも。
いつしか凍りついて思うように動かなくなってしまった心が、それでも。
漠然と求めているもののために忠実に生きたいと渇望していた。

そうして、自分は手に入れたのだ。
細胞が酸素を求めるよりも強く、身体が水を求めるよりも深く、魂が探し求めていた存在を。

(地獄も煉獄も望むところだ)

神は、隣人を全て愛せと宣った。
ならば、今一度問おう。
自分にとって大切なものを傷付け、奪う者が隣にいたとしても、お前はそいつを愛せと言うのか。
救世主だと崇められていながら、今この瞬間も何の罪もない命が理不尽に失われているというのに。
小さな命が、守られるべき命が、宗教によって殺されているというのに。
この地球の長い歴史の中で、信仰と信仰が争い、一体どれほどの命が犠牲になったことだろう。
それでも、お前はまだ、“平等”を掲げ、真に救いを求める者の手に触れようとしないのか。
愚かなのは果たしてどちらだ、と思う。

己の傲慢さえも包み込んでしまう翼を持った天使と出逢い、愛し合えたのだ。
それを愚かだと、誰に言える。
罪だと言うのなら、それでもいい。
罰として、煉獄に降り注ぐという灼熱の炎を浴びることになろうとも。
己の心に忠実に、求め求められ、愛し愛され生きることはとても幸せなことだろう、とほくそ笑む。

「ここは、宣戦布告をした場所だ」
「宣戦布告、ですか」
「あぁ。俺を阻むのなら、容赦はしないと」
「神に対して?」
「この命を賭けて戦ってやる、とな。ガキの戯言だったが、俺はあの頃から成長していないらしい」

少年の頃と変わらない想いで、壮麗な主祭壇を見つめる。
いや、あのときにはなかった確かな覚悟を胸に。

「あなたは本当に幸せなのですね」
「あぁ」
「あなたに愛される人も、幸せでしょう」
「そうであると願いたい」
「えぇ、きっとそうですよ」

他人の言葉など、ハインリヒにとっては雑音でしかなかった。
だが、司教の深い慈悲を滲ませたそれは、何故かひどく優しく染み渡った。

自分とアルフレードを知る者からの肯定とは訳が違う。
自分たちのことを知らない、全くの他人からの肯定がこれほどまでに意味あるものだとは。

「雪が降る頃に、連れて来よう」
「楽しみにしています」
「そのときは、あの子のために祈って欲しい」
「えぇ、もちろんです」

知らず握りしめていたロザリオを解放してやれば、バラ窓から差し込んだ月光がそれを包み込む。
アルフレードが持つそれによく似た、美しいロザリオだ。
精緻な意匠が施されているそれを、本来は首に掛けるものではないと彼から聞いて知っていたが、あえて、彼と同じように首に掛ける。
そして、彼がよくそうしているように、十字架を口許に運ぶ。

「最愛の天使に愛を。そして、光の幸いを」

そっと目を伏せ、ロザリオに口付ける。

祈るその姿は、ひどく美しく。
たとえば、不平等を好む神が居たとして。
彼のそれは、その神が誰かのために祈っている姿そのものなのだろうと思う。

あと数時間で夜は死に、朝が産声を上げる。 
その生誕を。
そして。
不遜な神のような男が、愛する人のために祈りながら生きる1日を祝福するために打ち鳴らされる鐘の音は、さぞ美しいに違いない。

彼の天使の元にもその音が届くといい。
そう願いながら、司教もまた主祭壇の救世主を見上げた。
勇敢な戦士を見つめ返すそれの眼差しがどこか優しげに感じたのは。
きっと、気のせいではないだろう。

  幼き少年が胸に宿した小さな炎が轟々と燃える様を見るがいい


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***
いろいろ言いたいことは分かります。
アルとのいちゃつきがなくてすみません。
華がなくてすみません。おっさんとおじさんですみません。

そして、BD小説の読み切りだと思わせておいて、実は続く予定ですみません。
クリスマス小説の伏線として、「ハインの中に新しい感情が生まれた日」ということでどうしてもこのタイミングで出したくて…。

というわけで、クリスマスに続きます。

*ブラウザを閉じてお戻りください


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