Ich bin in dich verliebt.

ドイツを代表する高級スーツブランドのロゴが入った、フォーマル一式。
アリタリア航空のアメニティを一任されているイタリアの老舗ブランドが発表したばかりの、新作のカジュアルシャツ。
他にも、アメリカやフランス、日本…。
誰もが一度は聞いたことのある最高級ブランドの名前が印刷されている紙袋をずらりと目の前に並べられ、思わずぽかんと口が開いてしまう。

「あぁ、それとこっちは…革靴だ」

世界に数多ある革靴ブランドの最高峰に君臨する“革靴の王様”の名前が入った紙袋が、オレの前に築かれた山脈に加わる。
一流品と謳われるもので築かれたそれは、今にも崩れてしまいそうな高さだ。

「サイズはいいと思うが…色で迷ったから2足ある」

黒もいいが、茶も捨てがたかった。
そう言うハインの手には、同じロゴが入った紙袋がもう1つ。
“世界最高峰の既製靴”と称されるパリの支店のものではなく。
イギリス本国の“世界最高峰のビスポークシューズ”。
革靴の聖地であるノーサンプトンで熟練の職人が選び抜かれた上質な素材で一足一足丁寧に造り上げていくそれは、もはや芸術
品の域にある。

当然、それ故に容易く手にできるものではないというのに。
今、オレの目の前にはオレのために仕立てられた革靴が色違いで2足。

「……」
「それと…」
「え、ちょっ、ちょっと待って!」
「どうした?」
「どうした、じゃないよ!まだあるの!?」
「あぁ。一先ず、留守を任せていた分の土産はここまでだ」
「…一先ず?」
「ここからは、寂しい思いをさせてしまった分の土産」

5日間の海外出張から帰って来たばかりで疲れているはずなのに。
そんな素振りも見せずに、むしろ、ハインの顔はどこか満足そうで。
嬉々として箱や紙袋を並べていくその姿に、呆れていたのを忘れて笑ってしまう。

お土産というにはあまりにも桁が違うけれど。
ドイツに住んでいるのだから、ドイツのブランドのものはもはや“お土産”ではないけれど。
世界中のブティックが凝縮されたかのような光景が広がっているけれど。
楽しそうな彼につられてしまう。

「フランスに行っていたはずなのに、世界旅行をして来たみたいだね」
「それは俺が引退したらアルと行く約束だろう?」
「ふふ、そうだったね。それにしても、すごい量だね」

日常的に使えるラフな洋服からフォーマルと革靴、焼き菓子や羽ペンまである。
出かけるときは、片手で軽々と持てる小さなトランクケース1つだけだったというのに。
そんな彼が両手いっぱいに荷物を持って帰ってくるものだから、何事かと目を丸くしてしまったのも無理はないと思う。

ハインはいつだって必要最低限の物しか持たない。
ポケットにパスポートだけを入れて、「香港の支社に行ってくる」と海外へ旅立つ彼に何度驚いたことだろう。
権力や地位をひけらかすように収集をすることもなく、ライターも鞄も時計も長年愛用している。
玉座に座る前は世界中を飛び回っていたからなのか、「身軽な方が楽だから」と普通の生活に必要な物さえなかったことに驚いた
記憶はまだ新しい。

そんな彼が、あれもこれもと物を選んでいる姿が、可笑しくて。
オレのことを想いながら、あれでもないこれでもないと選んでくれたことが、微笑ましくて。
何よりも、愛しくて。

「Ich bin in dich verliebt.」

お前に夢中なんだからこればかりは仕方ない、と笑うハインに腕を伸ばす。
すかさず抱き寄せられ、甘えるようにその肩口に顔を埋める。

「気に入ってくれたか?」
「うん、もちろん。ありがとう」

大きな掌で頭を撫でられ、その心地良さに擦り寄る。
オレの為に、オレだけの為に、オレを想いながら、彼はどんな顔でこれらを選んだのだろうと思う。
きっと、ひどく優しい眼差しをしていたのだろう。
きっと、ひどく穏やかな手つきだったのだろう。
まるで、愛を囁くように。

「嬉しい、ハイン」

物ではなく、その想いそのものが嬉しい。
愛しい。

「後は、食品が午後に届く」
「食べ物も買ってきてくれたの?」
「あぁ、それは俺が寂しかった分の土産だ」
「ハインが寂しかった分?」
「お前の手料理が食えなかったからな。ホテルの飯は味気ない」
「ふふ。じゃぁ、今夜はハインの好きな物作ろうか」
「お前の好きなチーズとワインも届くぞ」
「ブティックの次は市場が開けそうだね」

新しい冷蔵庫も必要だろうか、と呟くハインに笑って、オレのことをこんなにも想ってくれる最愛の彼に口付ける。
限度というものも必要だと彼に教えなければ、と思いながら。




web拍手 by FC2

***
好きな子には何でも与えたくなっちゃう系男子。

*ブラウザバックでお戻りください


スポンサーサイト
管理者にだけ表示を許可する

この記事のトラックバックURL

http://storiaeterna.blog10.fc2.com/tb.php/319-4970b9fc

  


  一行の物語(1h毎に入替)

頁の外にある物語(小話部屋)

小ネタブログ[eterna allegato]

もう1つの物語(創作BL小説)

創作物語の別巻ブログ[arcobaleno]

  「物語」の頁を繰る人々

  

Designed by

Ad