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頁のない物語 #07

「貴方は、生きて」

ひどく穏やかに、優しく、美しく微笑みながら。
夢の中で久方の逢瀬を果たした君は、そう言った。

いつだって真っ直ぐ前を見つめる靭い瞳は相変わらずで。
まるで、喪失感に挫けてしまったこの情けない姿を叱咤するかのようなその眼差しに、はっとした。

あぁ、気高く生きた君のように。
君に恥じないように、生きなければいけない、と。
哀しみを抱えて生きる勇気を、取り戻せた気がした。

__________


御伽噺のように、キスをするだけで目覚めてくれたなら。
そう希い、思い知らされる。
現実の非情さを。
現実の残酷さを。
それでも、「どうか」と願わずにいられるほどの正気は残されていなかった。

「…逝かないでくれ…ッ!」

あぁ、自分の慟哭が耳鳴りのように痛い。

__________


例えば、私の上司がコーヒーや新聞を欲したとき。
その青年は既にそれを手に持っている。
例えば、その青年が散歩に行きたいと他愛ない願いを口にしたとき。
私の上司の支度は整っている。

それぞれの仕草に連動するかのように、彼らは次の行動を起こす。
互いに、相手の何気ない仕草や心の機微に常に注意を払っている。
しかも、無自覚に。
無意識に。

「ハイン、万年筆ここだよ」
「あぁ、ありがとう。ちょうど探そうとしていたんだ」

それはまるで、呼吸。
考えるのではなく、当たり前の生命活動のひとつであるかのような、自然なこと。
出逢うべくして出逢った彼らに、あぁ、これが愛する人を想う行為の本質的な部分なのだと思った。

__________


「長かった?」
「長かった」
「オレは短かった」
「短くもあったな」

「ハインと出逢って、過ごしたこの2年…短くて長かった」
「これから共に過ごしていく時間もまた、長くて短いだろうな」

時間の進み方は不変だというとても単純で、当たり前のこと。
それを、ある理論物理学者は難解な数字と言葉で証明した。
107年前に“相対性理論”と名付けられた、その事実に理論の花を添えて。
Albert Einsteinを想う、短くも長く、長くも短い2012年最後の夜。

__________


何もかもを抱擁してしまう深い海の色。
その昔、神に近い者だけが持つことを許されたという神聖な色。
それを宿した、綺麗なその瞳に見つめられて。

「……っ、」

きゅうっと肺が握られたように痛くなって、一瞬、呼吸を忘れた。
あぁ、これが。
これが、「イトシイ」という激しい情動の甘い痛みなのだと、知った。

__________


「このまま世界が終わったら、幸せだろうなぁ」

お互いの体温も鼓動も混ざり合うほどに、ぎゅうっと彼の腕に抱きしめられて。
そんなことを思っていたら、うっかり口端からそれが零れた。

「終わらせるか」
「え?」

彼は徐にベッドヘッドの時計に手を伸ばし、それの電池を抜き取った。
針が、止まる。

「これで、この世界には俺とアルだけだ」

ひどく優しげな微笑みを浮かべた彼に見つめられて。

「アル、幸せか?」

そう問うてきた彼に、オレは頷くことしかできなかった。

__________


「ハインがいなくなったら、オレはきっと呼吸もできないね」

そう言って本当に幸せそうに微笑んだお前に、震えるほどの歓喜を知った。
依存されている、という歓喜を。
そして、同時に。
俺の死は自分の死を意味するとまで言わせるほど依存させた自分を責めた。
呵責、ではなく。

「ハインは、オレの存在理由だから」

そう、これは呵責でも後悔でもなく、罪悪感。
依存し、依存させ。
まるで螺旋階段を下るように相互依存を深めさせていくことに対する、罪の意識。
あぁ、何て贅沢で甘美で幸福な、罪悪感だろうか。

__________


地上に降り立った天使たちは、羽を隠して人間たちと生きる道を選んだという。

「ハイン、なぁに?擽ったいよ」
「ない、な」
「え?何が?」

ならば、お前の背にもまた。
隠されている羽があるのだろうか、などと思い。
触れた背に何もないことに、ひどく安堵した。

__________


何ともなしに手を伸ばしてみたら、何も言わずにその手を掴まれた。
それが、無性に嬉しくて。
ただただ、愛しくて。

「ハイン、ハインリヒ」

ぎゅっと手を握られ、これ以上にないくらいの安心感に包まれて。
あなたが居るから大丈夫、そう思うことができた。

__________


「幸せで堪らない」

オレの肩口に顔を埋めて、微かに震える声でそう言ったあなたの吐息に擽られる。
ぎゅうぎゅうと抱きしめられ、胸がきゅうきゅうと甘く締め付けられた。
甘く、甘く、そして優しく。

「うん、幸せだね」

あなたが顔を埋めている肩口が、熱い水滴にじんわりと濡れたことには気付かない振りをして。
あなたがこの世界に生を受けた奇跡に、ただただ感謝して。
降り募る愛しさに、酔いしれた。

*中篇「バッカスの奉祝酒を捧ぐ」より



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