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頁のない物語 #12

甘い香りがした。
花とも菓子とも違う。
人工では決して作れない、優しい甘い香りだ。

「あぁ、今朝のか…」

ふと、今朝は妙に離れ難く、玄関先でアルフレードをしばらく抱きしめていたのを思い出す。
この香りは、そのときに彼から移ったものか。
今頃は陽光が燦々と降り注ぐバルコニーで植物たちに水を与えている頃だろう。
あの穏やかな笑みを浮かべている様が容易に想像でき、指に挟んでいた煙草をケースに戻す。

「紫煙で消すのは惜しいからな」

最愛の存在を肺の中にまで感じ、そっと口端を緩めた。

*5月31日/世界禁煙デー

__________


彼の頭をぎゅうっと胸に抱き寄せて。
オレの心臓の上に彼の耳を押し当てながら、彼の黒炭色の髪を撫でる。
そうすれば、人は人に癒される。
オレは、この人にそう教えられた。

「何も言わなくていいから…だから、今だけは何も言わずにオレに甘えて」

世界はたくさんのストレッサ―で満ちている。
けれど、オレたちはそのストレスを和らげる方法を、知っているのだ。

*5月17日/聖マドロンの日(聖マドロンは「苦痛の緩和」の守護聖人)

__________


恭しく空けられた王座に堂々と腰掛け、淡々と指を揮う不遜な男。

(その実、仮面の下で酷く苦しみながら…)

戦っているのは騎士だけではないのだ、と。
嫌でも痛感する。
決断する王も共に戦っているのだ、と。
彼は騎士が流す血と同等の涙を流すことのできる王なのだ、と。

不遜なだけの王であれば苦しむことはなかっただろうに。
しかし、そういう人だからこそ跪くに値するのだとも思う。

(願わくば、その苦しみも共に)

臣下である誇りを胸に、私もまた戦場を見据えた。

*4月30日/秘書の日

__________


書架で眠るようにひっそりと収められていた一冊の本。
ページには、何も書かれていない。
タイトルも、作者も、何も書かれていない真っ白な本。

「父さんに初めて貰ったのが、その本だったんだ」
「何も書いていない本?」
「そう。あ、でも、最後のページにだけは言葉があった」
「何て?」
「“続く”って」

今はオレの本棚に収められているその一冊の本。
今も真っ白なそのページはきっとこれからも真っ白だけれど。
目には見えない文字で描かれた物語は、きっと幸福なものに違いないと思った。

*世界本の日

__________


いま、私はちゃんと笑えていますか?
愛するあなたに、何かを遺すことができましたか?

「約束の丘で、待っています」

いつまでも。
何世紀の時が流れたとしても。
この魂から、あなたの記憶が消えてしまったとしても。
あなたが許してくれるのなら。
私はまた、命の限り、あなたを愛します。

*4月15日/遺言の日

__________


彼は、徹底した平等主義者だった。
助けを希う特定の誰かに、手を差し出すことは絶対にしない。
それが、彼の“救済”のスタイル。

「でも、オレの神さまは手を差し出してくれた」
「あいつは知らないのかもしれないな」
「何を?」
「差し伸べた手を握り返してくれる存在を」

どちらからともなく、手を繋ぐ。
決して、離れないように強く、強く。
その間にあるのは。
天と地の狭間において、不平等という平等の“救済”だった。

__________


真剣な眼差しは、パソコン画面に向けられたまま。
時折、長い指が書類を捲る。
ゆらゆらと細く漂う紫煙を何ともなしに目で追い、ふと、寂しさを感じる。
オレはいつからこんなに甘えたになってしまったのだろう、と自分に苦笑をひとつ。
そうして、サボテンに愚痴をひとつ。
「今日はキミとふたりぼっちだね」と。
でも、本当はこんな時間も嫌いじゃない。
だって。

「アル、おいで」

だって、オレが寂しさを感じたときは。
彼は必ず気付いてくれて、そして、強く抱きしめてくれるから。

__________


「声を殺すな」

温かい掌に背中を撫でられながら、そう言われた。
ひどく優しいその手つきに、噛み締めていた唇から、飲み込めきれなかった嗚咽が零れる。

「心を抑え付けるな」

叫びたいのなら、叫べ。
枯渇するまで、涙を流せ。
声が潰れるまで、慟哭しろ。
背中を撫でる掌が、触れ合った肌が、伝わる鼓動が、そう言う。
それが、生きるということだ、と。
だからオレは、無意識の内に堪えることを覚えてしまった身体から力を抜いた。

明日になったら笑えるように、今日は泣いておこう。

__________


大切な存在を喪い、己の意義を見失いかけていたときに出会った手負いの少年。

「先生」

意味などなかった世界を傍観することにも厭きていた己に、意味と意義を与えた美しい青年。

「ハイン」

深い傷を負いながらも、凛と背筋を伸ばして前を見つめる力強い瞳を持った、愛しい存在。
その瞳に見つめられ、名前を呼ばれたあの瞬間。
確かに。
世界が、動き始める予感がした。
あの時、時が流れ出すのを感じた。
時が動くのに上げた金切り声を、俺たちは確かに聞いた。

__________


傾きかけたオレンジ色の夕陽を食み、ステンドグラスが輝く。
それは一筋の光となり、身廊を歩む者をかの者の足許へと導く。

「…此処には、居ないのに…」

それでも導かれるまま足を進め、崩れ落ちるように両膝を付く。
そう、此処は。
贖罪を請う者が、断罪を願う者が、救いを求める者が、縋りつく場所。



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