頁のない物語 #13

寂しい、なんて言えないよ。
だって、その気持ちを認めてしまったら、笑顔であなたを見送れなくなってしまうでしょう?
だから、今日も私は笑顔で「いってらっしゃい」を言うの。
あなたに、とびきりの笑顔で「おかえりなさい」を言うために。

__________


朝の産声を聞く瞬間、あなたと過ごせる1日に感謝するのです。
今日も同じ時間を過ごして、生きられることに。

「おはよう、ハイン」

そうして、いつか終焉のときが来るまで。
オレは、今日という日に感謝するのです。

__________


ありがとう、ごめんなさい、だいすき。
あなたに伝えたい言葉がたくさんあって。
伝えられなかった言葉がたくさんあって。

「なぁ、お前は幸せだったか?」

幸せだったよ、と囁いた声はあなたには届かなくて。
あなたの頬を伝う涙を拭うこともできなくて。
それでも、あなたの唇が「俺は幸せだった」と紡いだのを見つけて。
もどかしさや歯痒さ以上の幸福感が、胸を満たした。

__________


人間は無力です。
この不完全な世界を創った神が創ったのだから、人間が完璧なはずがありません。
どんなに祈って願ったとしても、その手で叶えられることは僅かです。
それでも。

「あなたと歩む道に、光を」

人間は信じて、祈り、願うのです。
大切な誰かを想い、愛する人のために。

*12月8日/聖母被昇天祭

__________


Heinrich…。

音には乗せずに、心の中で呼んでみる。
そうすると、まるで春の風に包まれるかのように、温かい何かがふわっと抱きしめてくれる。
穏やかで、優しくて、嬉しくて。

「Heinrich」

音を乗せて、呼んでみる。
すると今度は、温かい何かに包み込まれていたオレの身体は、逞しい腕に抱擁される。
あぁ、名前だけで、こんなにも幸せをくれる人。
そんな人を…オレは他に知らない。

*12月6日/音の日

__________


数十個の言葉を並べては消し、並べては消して。
悩んだ末に、便箋に書いた言葉は、たった一言。

“ありがとう”

伝えたいことは、他にも数えきれないほどある。
だが、そのたった一言に全ての想いを込め、綴った。
出逢ったこと、愛することを受け入れてくれたこと、愛してくれること。
産まれて来てくれたこと、諦めることなく生きてくれたこと。
そして。
彼と出逢うために産まれてきた、己の命にも。
感謝を込めて、封をした。

*7月23日/ふみ月ふみの日

__________


「雨、止まないね。今年も織姫と彦星は会えないのかな?」
「再会できたから、雨が降っているんだろう」

7月7日。
喜劇のように引き離された悲劇の2人が、1年に1度だけの逢瀬が許される日。
この日に雨が降るのは、天の川で再会した2人が歓喜の涙を流しているから。
だから、“嬉し雨”と呼ぶのだと。
彼はそう言って、微笑んだ。

「何だ、アルまで泣くことはないだろう?」
「だって…だって、嬉しくて」

こうして、共に在ることを許され続けていることが。
そう言えば、彼は力強く抱きしめてくれた。

__________


“今日”を終えることのできる奇跡に感謝し。
“明日”を迎えることのできる幸運に感謝し。
“過去”を愛し、“未来”を信じられるようになったとき。
きっと、人は初めて“今”を生きることができるのだと思う。

「だから、あなたと“今”を共有できることがとても愛しいんだ」

ただ呼吸を繰り返していただけの“今”。
それが、彼と出逢い、最愛の人と生きるかけがえのない“瞬間”に変わった。
だからこそ、今この“瞬間”に心から感謝した。

6月10日/時の記念日

__________


「アル…」
「なぁに?」
「これは、あれか?まさか、今日のドルチェか」

そうだよ、と満面の笑みで差し出されたのは。
よく巻いたな、と感心してしまうほどフルーツがぎっしりと詰まった巨大なロールケーキ。
つまみ食いをしていたのか、口端にクリームを付けたまま微笑むアルフレードに癒されながら。
何故か彼と俺の前に1本ずつあるそれから、そっと目を逸らした。

*6月6日/ロールケーキの日

__________


雨が、降りだした。
罅割れたガラス窓の向こう側で、静かに。
けれど、大地を濡らすには十分な細い雨が。

「…は、っ」

その雨音は耳鳴りのように、ひどく霞んだ頭の中で響き続ける。
痛い。
どこが痛いのか分からないほどに、どこもかしこも痛い。

「…け、て…たすけ、て…」

雨の音は、まるで、誰かが嗤っている声のようで。
あぁ、やはり神は誰も救わないのだ、と嗤った。

*6月2日/裏切りの日



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