頁のない物語 #17

正義を振りかざす者よ。
お前のその剣は何を護る?

「たとえそれが正しい暴力だとしても、彼を傷付けるのならば容赦はしない」

弾を込め、トリガーを引こう。
護りたいものを護るために戦いことを悪だと言うのなら、それで構わない。
正義を振りかざす者よ。
覚悟はいいか。
さぁ、この悪に立ち向かって来るがいい。

__________


恭しく跪いた騎士の肩に、王は白く煌めく剣をそっと置く。
叙任の儀式が、静かに終わる。
誰にも気付かれることなく、当人たちですら知らぬ間に。

「共に生きよう」

交わされた言葉は、宣誓。
幾世紀にも交わされた違えられることのない絶対的な誓いが今、再び契られる。

__________


ある遠い時代の、どこか遠い土地で交わされた約束。
その約束を果たすために、再び巡り逢ったのだと。
今はそう信じたいと思った。

__________


ノートに書いた文字のように、跡形もなく消すことができたなら。
ふと、そんなことを考えて、笑った。

「消されてたまるものか。この傷だって、オレが生きてきた証拠なんだから」

消したいと願ったこともあった。
けれど、今は。
今は、傷だらけでも生きてきた自分自身に胸を張って言える。
これが、オレなのだ、と。

__________


それを知ったとき、血が沸騰するほどの怒りが込み上げてきた。
同じだけ、あるいは、それ以上の残酷な報復を、と。

「いつか…」

胸を押し潰されそうな苦しみと悲しみ。
生きながらにして身を引き裂かれるかのような、激しい痛み。
あぁ、同等のものを奴等に。

「死を望むほどの、“Rache”を奴等に…」

__________


罪を背負って、業を抱えて、それでも歩んで往く。
赦されるためではなく、いつか堕ちる地獄へと向かって。

「光ならば、此処に在る」

苛烈で、繊細で、穏やかでいて強かな眩い光。
轟々と燃える炎によく似たそれがある限り、畏れるものはない。
さぁ、平等を愛する神との決別の時だ。
剣を抜け。
ルチーフェロの加護を、今。

__________


何も遺されていない、と思っていた。
美しいヴィッラとあの土地の景色に、ほんの少しだけ色を残している記憶は確かに遺されたものだけれど。
写真だってたくさん遺してくれたけれど。
この両手はとても軽くて。

「けれど、あなたに愛されて初めて知ったんだ」

大切な人たちに愛され、慈しまれ、最期まで想われていたこの命が。
この命こそ、彼らが遺してくれた最大のものだと。

「だから、とても重たい。生きるって、こんなに重たいことだったんだね」

誰かの愛情や想いと共に生きる。
その重さと尊さに、苦しくなった。

__________


「オレはあなたが思っているような綺麗な人間じゃない」

そう言って、確かな憎悪を瞳に宿した青年の眼差しの強さに。
涙に濡れながらも、決して失われることのない燃える意思の強さに。
この地上には、真に美しいものが存在していることを知った。

__________


諦めていた。
諦めることができないことを。
絶望することも。
嘆くことも。
諦めていた。

「でも、希望を諦めなかった」
「往生際が悪いんだ」
「ううん。ただ信じていただけだよ。ハインは、信じ続けてくれた」

だから出逢うことができたのだ、と笑う彼に。
あぁ、世界を諦めなくて良かったと心から、そう思った。

__________


誰かが正義をかざすとき、誰かが悪を謳う。
善人は高潔な精神などありはしないと囁き、悪人は良心は裏切らないと嘯く。

「狂気も絶望も、いつだって傍に居る」
「そうだな」
「でも、勇気や希望はいつも胸の中に居るんだよね」

だから、大丈夫。
たとえこの深い闇に飲み込まれる恐怖に戦慄いたとしても、大丈夫。
恐怖が怖いと感じられる限り、その深淵に堕ちることはないと、確信しているから。



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